九州朝日放送株式会社は放送事業、グループ各社は、映像制作やイベント、ラジオ制作、不動産管理、コンサルティングなど多岐にわたる事業を展開しています。
一方で管理業務は、グループ各社が個別最適を追求してきたことから、業務が属人化。システムも各社独自で展開しており、経理業務全般のグループ最適が課題でした。
そこで、「企業経営に示唆を与える経理財務部門の組成」を目標に掲げ、その第一歩としてグループ各社にfreee会計を導入する取り組みが九州朝日放送主導で行われました。
同社の経営スタッフとして中期経営計画の策定に携わり、freee会計導入の推進役となった経営企画本部の金子友一さんにお話を伺いました。
中期経営計画の一環でグループ会社のバックオフィス体制を見直し
ーー貴社の事業内容と、ご担当の業務内容を教えてください。
金子友一さん(以下、金子) 当社の主事業は、テレビ・ラジオ放送です。テレビはテレビ朝日系列の基幹局として、また、ラジオはニッポン放送や文化放送と同じNRN系列の一角として、北部九州エリアを中心に番組やイベントをエリアの方々にお届けしています。
グループ会社には、映像を始めとするコンテンツ制作会社である「株式会社ケイ・ビー・シー映像」、ラジオやイベント制作、シネマ事業を行う「株式会社ケービーシーメディア」、不動産管理を担う「ケイビーシー開発株式会社」があります。さらに、2020年4月に設立した「株式会社Glocal K」では、コンサルティング事業を展開しています。今後、2023年4月1日付で、認定放送持株会社体制へ移行する予定です。
私は2016年12月に中途採用で入社し、経営企画本部に在籍しています。グループ全体を俯瞰し、中長期視点に立つという組織の役割から、中期経営計画の策定に携わりました。策定後は、アクションプランの一つである「グループ会社の経営基盤強化」の具現策として、グループ共通の経理システム導入を検討してきました。
ーーグループ会社の経理業務にはどんな課題がありましたか?
金子 代替の効かない人員体制と業務効率化の2点です。
会社の規模がそこまで大きくありませんので、経理業務などの管理要員は少数精鋭で運営する必要があります。そうなると、どうしても属人化してしまい、専門的な知識を有するため人事異動もやりにくい。そんな中、不測の事態が生じてしまうと会社が回らなくなってしまうと感じました。
また、業務全般がもう少し簡略化できるのではないかと思いました。請求書発行に関するルール、伝票作成に関するルール、現金出納に関するルール、資料作成に関するルールなど、それぞれに対する「きまり」がとても細かく設定されており、それがきちんと運用されていました。
ーーなぜ、そうした課題が生じてしまっていたのでしょうか?
金子 人員体制については、各社最適で経営をしてきたからだと思います。これは当然ですよね。ただ、当社グループは業務の親和性が高く、同じビル内で仕事をしています。中期経営計画では、「グループ視点」もテーマであったことから、経理要員の育成や配置もグループ全体で見ていこうと考えました。
「ルール」の多さも当然だと思っています。何かミスが生じれば、それを防ぐための取り組みが発生する。ひとつひとつの取り組みは些細なものですが、年月を重ねると膨大になってしまう。発生可能性の頻度を考えずにルールが増え続け、止めることを検討しないのは、どこの会社でもあることではないでしょうか。
このような課題は、親会社のような立場の者が全体を俯瞰するとともに、各社で知見を共有したり、業務を集約したりすることで解決できるのではないかと考えました。そのため、役員会に「企業経営に示唆を与える経理財務部門の組成」を提案し、そのための第一歩としてグループ共通の経理システムの導入に踏み切りました。
導入実務は、まず自身で検証。勘所を活用し、グループ会社へ展開
ーーfreee会計を導入することになった決め手は何でしたか?
金子 要件は二つありました。一つは、伝票を作成するだけではなく、決算まで一気通貫でできる経理システムであること。もう一つは、データを加工することによって、環境の変化に耐えられるような分析ができることです。
それらを満たすのは、freee会計しかありませんでした。また、価格がリーズナブルだったのも魅力でしたね。
ーー導入はどのように進めましたか?
金子 まずは、グループ全社に導入できるか私自身で検証しました。
2020年の1~3月にかけて、勘定科目などのマスタについて、グループ共通にしたほうが良いもの、各社に運用を任せるものなどを選別するために、既存のグループ会社の経理システムを理解することから始めました。
同年4月、新会社GlocalKで試験的導入を開始。私が担当し、疑問点は、freeeの営業担当者やオンラインサポートの力を借りながら解決しつつ、グループ全体に広げられるかの見極めを3カ月程度で行いました。
既存グループ会社への導入は各社の経理担当者が行うわけですが、実務と並行して作業をしてもらうことになります。そのため、課題となりそうなところは先回りして方針を決めたり、作業のメリハリイメージを導入担当者に事前に持ってもらったりしました。このあたり、自らGlocalKで導入したことで勘所が付くんですよね。
結果的に、2021年4月からグループ全社で本格稼働。2021年度決算も無事に乗り越えることができました。
伝票・請求書作成の省力化、データ活用による業務の高度化を実現
ーー導入時に苦労したのはどんな点でしたか?
金子 実は、経理システムの更新は過去、グループ各社が独自で検討していました。ただ、独自ゆえに、要件定義がうまくできなかったり、既存業務に固執してしまったり、導入コスト面で頓挫したりで、着手には踏み切れませんでした。
そのため、親会社主導である今回の取り組みは、渡りに船の部分はあったとは思います。ただ、特にグループ会社の役員の方からすれば過去の経緯もあり、不安になるんでしょうね。「今までやってきたことが、これからもできるのか」と言う意見をいただきました。
これは、たとえ丁寧に説明したとしても現物を見てみないうちは心配ですよね。私からは「今まで以上のものを提供します」とうそぶいてみましたが、リリースされるまでは気が気でなかったでしょうね。
実際、私自身もシステム導入を経験したこともあり、動かなかったり、失敗したりしたらどうしようと考えることもありました。このあたりは、freee会計の導入実績数を頼りに「絶対できる」と自分に言い聞かせていました。
ーー導入前後でどんな変化がありましたか?
金子 現場からは、伝票や請 求書作成の省力化ができたと報告がありました。
これまで会社に戻って作業する必要があった伝票作成業務が、スマートフォンを使えばどこでも作成することができるようになりました。請求書も電子データ化したことで作業が大幅削減。印刷や封入れ、投函作業がなくなるとともに紙代や郵送代も節約されました。
経理部門は、データ活用による業務の高度化に取り組んでいます。
決算作業が紙帳票からデータになったことでチェック体制が高度化しました。また、振込データが自動生成されるのでインターネットバンキングでの作業も激減。伝票に関する社員間のやり取りもオンラインでできるので効率化が進んでいるようです。
経営層からは、情報の共有化で評価をいただいています
これまで経理担当者に聞かなければ分からなかった決算数値が、自らリアルタイムで検索できるようになりました。また、データ活用による部門や案件ごとの多面分析が行えるようになったことで、迅速な意思決定に寄与していると感謝されました。
経理システムの導入は「手段」であり、「目的」ではない
ーー導入後、担当者の方が新たに取り組めるようになったことはありますか?
金子 グループ間の連携でしょうか。
同じシステムを使い始めたことで、疑問があった時にお互い相談できるような環境になりました。話し合いをする中で省力化できないか気が付くこともあるようです。また、グループ視点としては、新しい年度を迎えるにあたり、マスタや業務の効率化ができないか集まってディスカッションすることも始めました。
ーーfreee会計の導入を検討している企業の方にアドバイスをお願いします。
金子 システム導入を「目的」としないことだと思います。
「現システムの保守が切れるから」、「予算計上しているから」といった、とりあえずな理由でシステムを導入しようとすると、それ自体が「目的」となってしまい、現状から変化できません。何を達成したいのか、変えたいのか。目的を明確化した上で導入作業に入ったほうが良いかなと思っております。
また、導入に際しては「経理の都合で入れる」という見られ方をしない工夫が必要かと思います。例えば当社グループでは、「現場のみなさんの伝票作成に費やす業務負荷を減らしたい。減らした分、本業に専念いただきたい」という説明をしました。
実際、経理システムの導入は、すべての部門に影響しますからね。新しいシステムを導入してみたけど、便利だった機能が使えなくなった上に、業務が増えて不便になったという話はよく聞きます。そうならな いための「目的」設定は必須だと思っています。
ーー最後に、バックオフィスについて今後の展望をお聞かせください。
金子 経理や総務などのバックオフィス部門は、会社組織にとってなくてはならない存在です。そういう中、先ほども話したように企業経営に示唆を与えるようなバックオフィス体制がこれから求められていると感じています。必要とされる存在感でしょうか。昨日と同じ作業を繰り返して満足していては、時代に取り残されてしまいますよね。
グループでシステムが統一されたこともあり、いずれは他社の経理を担当したり、今まで税理士に依頼していた会計処理などに挑戦したりできる体制となり、役員だけでなく現場からも本当の意味で頼られる組織にできればいいかなと思っています。
(取材・執筆:遠藤光太 撮影:九州インターメディア研究所 編集:ノオト)