伊予銀行は、愛媛県を中心に四国全域や中国・九州地方などにも事業展開している地方銀行です。同行では、各取引先のニーズの高まりを受け、2018年3月からICTコンサルティング業務に乗り出しました。4年後の2022年3月には、地方創生に資する取り組みとして評価され、内閣府特命担当大臣による、地方創生に資する金融機関等の特徴的な「取組事例」にて表彰されています。
今回は、宇和島運 輸商事様のICT化事例をご紹介します。同社総務部の山西正悼氏と伊予銀行法人コンサルティング部の黒石賢誠氏にご登場いただき、従前にはどのような課題があったのか、それをどのように解決していったのかを伺いました。
お客さまの「困っている」を解決する
――本題に入る前に、伊予銀行がICTコンサルティング事業を始めた経緯についてお聞かせください。
伊予銀行・黒石賢誠氏(以下、黒石): 従前の当行のIT化支援では、「インターネットバンキング」や「でんさい」等の銀行サービスを中心に取り組んでいましたが、銀行サービスにとどまらないICTの活用全般に関する相談が増えてきました。また、地域のICT化について、地方銀行として何ができるかを検討する中で、取引先企業がICTツール導入による業務効率化の必要性は感じているものの、「人材不足」、「導入効果がわからない」ことを理由に活用が進んでいないことが判明しました。そこで、相談を受ける範囲を拡大し、取引先企業の生産性向上や業務効率化についてアドバイス・顧客サポートができる体制を目指し、ICTコンサルティング業務を開始しました。
リアルタイムな経営状況把握と業務の効率化を目指す
――宇和島運輸商事としては、どのような点が改善課題だったのでしょうか?
宇和島運輸商事・山西正悼氏(以下、山西): 大きくは2点ありました。ひとつ目は、売上や収支などのデータを出すのに時間がかかっていたことです。従前は、売上や経費の集計を税理士事務所さんに丸投げしていました。取引記録は膨大な量がありますから、経営陣が月間の確定データを確認できるのは翌月中旬くらいと、長いタイムラグがあったのです。社会や経済を取り巻く環境が目まぐるしく変遷するなか、リアルタイムで経営状況を捕捉できず、ひいてはタイムリーに適切な対策を打てない状況にあるのは、深刻な問題です。ふたつ目は、先述の問題を受けて社内でも振替伝票を作成していたことです。税理士事務所に記帳を委託している以上、本来は不要な作業ですが、経営判断を多少なりとも早めるためにと、社内でも伝票起こしと集計にあたっていたのです。
――確かにシステム化で大幅に改善できそうな話です。ただ、世の中にはIT企業がひしめいているなか、相談相手に伊予銀行を選んだ理由はなんだったのでしょう?
山西: 私は、2020年12月に弊社に転職してきました。前職でも経理担当で、ICT化による業務効率向上について伊予銀行さんにご助力いただいた経験があったのです。非常にいい形で成果を上げられたので、宇和島運輸商事のメインバンクも伊予銀行さんだと知り、相談相手には最適だと考えました。
地銀だからこそ実現できる親身で徹底的なヒアリング
――宇和島運輸商事さんから相談を受け、伊予銀行としてはどのように対応していったのでしょう?
黒石: まず、宇和島運輸商事様のお困りごとである「経営状況の早期見える化」や「経理業務の効率化」の解決には、freee会計が適していると判断しました。次に、freee会計を導入するにあたり、経理業務について細かにヒアリングさせていただき、現在の業務の流れを徹底的に洗い出しました。そのうえで、freee会計での新たな業務フローや本格稼働までのタイムテーブルなどを協議・考案し、2ヶ月ほどの試験運用期間を経て本格稼働に至りましたが、トータルで半年間のプロジェクトでした。
山西: 実を言うと、伊予銀行さんに相談する前には「独力でICT化を進められるかも」という思いが頭をよぎったこともありました。オフィス移転を控えていたこともあって結局はお願いしたわけですが、ヒアリングを受けてみて「こんなに細かなところまで調べる必要があるのか」と驚きました。単独で臨んでいたら到底思い至らなかったであろう確認事項が多数あったので、伊予銀行さんに頼って本当に良かったと思いました。
黒石: ICTコンサルティングを実施するうえでの伊予銀行の強みは、平素のお取引を通じてお客様の経営方針や事業内容に関する理解度が高く、そのぶん親身に寄り添うことができる点にあります。個人的にも「親身に」という部分を強く意識していますが、細かなヒアリングもその一環です 。山西部長のご指摘は励みになりますね。ちなみに、私自身はシステムやICTに特別詳しいわけでありません。現部署に異動してくるまではずっと営業でしたし、学生時代の専攻もICTとは無縁でした。もちろん、お客様にお勧めするシステムやツールについては日々勉強していますが、技術的に高度な領域は専門家の知恵や力を借りればいいと思っています。むしろ、お客様の立場からICT化を捉えることに伊予銀行の存在意義があると考えているのです。
――導入までの間に、特に苦労なさった点はなんでしたか?
山西: 従前にお付き合いのあった税理士事務所さんの判断で、勘定科目に関する定義が特殊になっていました。ICT化を機に、親会社と同じ税理士事務所さんに切り替えることになったので、勘定科目についてもスタンダードな定義に当てはめ直すことにしました。私自身が転職してきてからさほど時間が経っていないタイミングだったこともあり、何をどう正すべきなのかが手探りになり、苦労しましたね。
黒石: こちらは、特に大変だと感じることはありませんでした。ICTコンサルティングに取り組む際、経営トップや部門長は乗り気でも、実務にあたる方々は慣れ親しんだ業務フローが変わることに後ろ向きというケースが少なくありません。そんな中、宇和島運輸商事様は、関係者の方々全員が問題意識を共有なさっていて、みなさん前向きに取り組んでくださいました。おかげ様で、半年間のプロジェクト期間中も特にトラブルは発生せず、本格導入も非常にスムーズでした。
当初の問題解 決はもちろん、処理記録の検索が容易になるなどのメリットも
――ICTコンサルティングを受けてみていかがでしたか?
山西: リアルタイムで売上や収支を確認できるようになりましたし、振替伝票作成の手間をなくせましたから、相談時に抱えていた問題は全面的に解消できたと言えます。弊社は2022年4月からフェリーターミナル内にカフェを新規オープンしましたが、その経営状況を特に注視したい経営陣も心強く思っています。また、ICT化のメリットは、単に従前の問題を解決できたことだけにとどまりません。日々の経理業務のなかでは、イレギュラーな対応を要するケースも出てきますが、以前は類似ケースでどう対処したのかを調べるのに時間がかかっていました。freee会計導入で、手軽に過去の経理処理記録を検索できるようになったので、経験の幅や長さを問わず、社員の誰もが短時間で対処できます。運用を続けるなかでは、こうした望外な恩恵もいろいろ出てくるのではと思っています。
両社とも、さらなる高みを目指し続ける
――今回のプロジェクトをもとに、今後はどのような展開を目指していらっしゃいますか?
山西: 現状では、freee会計を過去実績の集計に活用していますが、これからは予算管理にも拡張していきたいと考えています。また、電子帳簿の義務化が近づいていますので、対応準備を進めつつ、ICT化を深化させていきたいですね。今回の成功体験は、推進の後押しになると思います。引き続き、伊予銀行さんにはご支援いただきたいですね。
黒石: 今回は、経理業務を中心としたご支援になりましたが、経理業務に限らずお困りごとを抱えていらっしゃる中小企業様は、一定数存在すると考えております。今後も時流に応じてお客様のニーズをより広く拾い上げ、問題や課題の解決につなげていきたいです。
(取材・執筆:竹内太郎 編集:笹岡美聡)