石川県金沢市に本店を構える北國銀行は、2017年以降、グループ全体でICT化の推進に踏み切りました。企画部門のバックアップのもと関連会社全体にfreeeを導入し、中心となってバックオフィス業務を集約させたのが、北國マネジメント株式会社です。
多くのグループ会社に対し、どのようなプロセスでICT化を進めていったのか。また現場では、どんな課題と成 果があったのか。北國マネジメント株式会社の山﨑哲さんと泉雅章さん、そして北国総合リース株式会社で、freeeの導入受け入れを担当した西規志さんに話を伺いました。
明確なミッションが大きな組織を一枚岩に
ーーICT化を始めた背景や経緯を教えてください。
北國マネジメント 山﨑哲さん(以下、山﨑) 北國銀行はもともと、関連会社のバックオフィス業務を各社に一任していましたが、グループ経営の合理化や決算早期化等に課題を感じていました。北國マネジメントの設立当初に事務全般を集約するという話が出たときには、当時の担当者が「何か巻き取れる仕事はありませんか」と各社に聞いて回る時期がしばらく続いていたようです。正直、現場主導で関連会社を変えていくことには、限界がありましたね。
しかし、私が北國マネジメントに出向した2017年に、当時北國銀行の専務だった杖村修司(現在は頭取)が社外取締役に就任し、銀行グループ全体として「本気でバックオフィスの集約に着手しよう」というミッションが掲げられました。そこで初めて、freeeの導入プロジェクトが始まりました。全社を集約化し始めてもう1年ほどが経ち、ようやく安定稼働している状態ですね。
ーー明確なミッションを掲げることで、ICT化が一気に加速したのですね。
山崎 はい、それと杖村からは会ったときに 「何か困っていることはない?」と私もよく尋ねられ、応援してもらいましたね。その支援体制があったからこそ、実現できたICT化だと思います。
北国総合リース 西規志さん(以下、西) 当時はまさに転換期だったんですよね。私自身も、前任者が退職するタイミングで、総務経理担当として北国総合リースに入社しました。当社は総合リース業の会社なのですが、既存のリースシステム導入から10年が経って更新の時期を迎えていたことと、freeeの導入が重なりまして……。引き継ぎを受けながら、とにかく一つひとつ覚えながら業務にあたっていました。
ーーfreee導入にあたっては、どのように進めたのですか?
北國マネジメント 泉雅章さん(以下、泉) freee会計に初めて触れてから3年ほどが経ちますが、行内にノウハウを蓄積したいという想いから、なるべくfreeeさんの手を借りずに自力で進めてきました。関連会社の中でも、まずは規模の小さい北國マネジメントで少しずつ導入を進めながら、ノウハウを貯めていったんです。
その後関連会社では、株式会社デジタルバリューで、freee会計、freee人事労務を導入。最近では加えてfreee申告も導入しました。freee人事労務に入力すれば、freee会計にもfreee申告にも連携するので、非常に使いやすいシステムだと感じています。
「大丈夫なのか?」「信じられない」といった声をしっかりと聞く
ーー導入時には、どんなところが難しいと感じましたか?
山崎 長年、子会社のことは子会社に任せてきた状況の中では、親会社に対する心理的なバリアが非常に厚いと感じましたね。「今後、会計ソフトをfreeeに変更します」という話をしても、「本当に大丈夫なのか?」「自分たちの仕事が減らされてしまうのではないか?」などと言われ、なかなか心を開いてもらえませんでした(苦笑)。
バックオフィスの経験が長い方もたくさんいたので、以前の会計ソフトを導入した当時の苦労話に耳を傾けつつ、「我々がすべて担当しますので、安心してお任せください」という姿勢で入っていきました。必ずしも全面的に協力いただけるわけではなかったことが大変でしたね。
泉
そうでしたね。とにかく先輩を立てる姿勢を貫いたと言いますか……。
「freeeはこのように操作をすれば試算表が出ますので、皆さんは見ていただくだけで問題ありません」と、実際にその場で見せながら伝えられたので、その点でやりやすくはありました。
ーー導入を受けた側の西さんはいかがでしたか?
西 前任者の頭の中にしかマニュアルがないような状況で業務を引き継がれ、私には経理の経験もないまま、マネジメントに業務移管して、システム変更して……と、今思えばなかなかハードな状況でした。
ケースス タディで覚えていくしかないので、口頭で引き継がれたものを自分でまとめ、現在のマニュアルを作りました。特に決算資料は、内部統制のフロー図以外に何もなかったので苦労しましたね。そんなタイミングでちょうどfreee導入となったので、業務を転換していくときに役に立ちました。
ーー他に大変だったことはありましたか?
山崎 一般的な会計システムより詳細なデータが持てるところは強みだと思いますが、逆に言えば、データの持ち方が異なっているので、データのコンバージョンに手を焼きました。例えば、freeeでは、補助科目をタグという概念で捉えます。弊社の場合「品目」タグという項目を使えば以前と同様の対応ができたのですが、当初のヒアリングでは十分に理解できず、後から手作業で直していました。
山崎 「我々にすべて任せてください」と胸を張ったものの、あとから振り返るとヒアリングのポイントが漏れていましたね。導入時に、最終アウトプットの形までイメージしながら聞けていたら、恐らく補助科目の話まで気づけたかな、と思うのですが……。
泉 とにかく、freeeにデータを流し込めるようにするのに一生懸命でしたからね(苦笑)。今では銀行のシステム担当者に、基幹システムからfreee様式でCSVを出せる変換ツールを作ってもらい一発で入力できるようになったので、非常に使いやすくなりました。当時からすると夢のようですね。
300枚の紙が数十枚に。ペーパーレス、はんこレスを着実に推進
ーーICT化によって、どんな成果が得られまし たか?
山崎 関連会社6社のICT化を2カ年計画で行う予定が、消費税増税に合わせ、1年9カ月ほどで完了できました。バックオフィス業務を集約したことによって、各社の担当人員を削減し、営業に専念してもらえる体制ができました。
また、各社バラバラで行なっていた業務を集めることで、銀行グループとしての連結決算や会計上の変更の対応が非常にスムーズになりましたね。以前は、各社の担当者を集め説明会を実施していましたから。
それからわかりやすいのは、ガバナンスの向上ですね。関連会社の状況をリアルタイムに報告できるようになりました。経費の使い方もひと目でわかるので、「本当にそれは経費を使うべき買い物なのか?」とチェックが入ります。そういった面で、間接的にグループ内の経費削減にもつながっていると思います。
また、これは間接的なものですが、各社との関係も良くなりましたね。以前は「関連会社との壁」みたいなものを感じていたのですが、導入を進めていく中でコミュニケーションをどうしても取る必要が出てくる。そうすると必然的に垣根が取り払われていきましたね。
ーー北国総合リースではいかがでしたか?
西 当社では、1回の決算で300枚ほどの紙を出力していました。リース会計特有の会計処理や税務処理があるためです。
山崎 決算資料を取りに行ったら、1回の四半期決算だけでA4ファイルの形が崩れるほどボコッと広がっていて、とにかくすごい紙の量でした。手提げ袋に入れてなんとか持って帰りましたが(笑)。
西 freeeを導入してから、四半期決算では紙が数十枚ほどに減りました。本決算は提出書類が多いのですが、それでもペーパーレス化は進んでいて、いちいち紙で出力してはんこを押すという業務は大きく減りましたね。正確でスピーディという、経理にとって「本来あるべき姿」が実現できています。
また、前期比較、3期比較ができるのも便利です。例えば本決算が近づくと、当期の着地予想や来期の見込み、経営計画を組み立てますよね。当社は3月決算なので、決算書類は3月が終わってから作成すればいいのですが、着地予想や計画には2月頃の比較が実務上必要になります。それがワンクリックでパッと出ますし、csvで出力し、加工して確認することもできる。他にも月次の残高推移をひと目で見られたりと、業務がスムーズになりました。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
西 これまでは入力して決算を組むことだけで精一杯だったので、今後はレポート機能を活用していきたいですね。試算表についてはcsvでデータを吐いて、Excelを手動で加工して使っていましたが、Googleスプレッドシートと連携する方法もあると聞いていますので、その辺もより手広く使いこなせたらと考えています。
山崎 今後は電子帳簿保存法を活用して、さらにペーパーレス、はんこレスを進めたいと考えています。また、関連会社の経費精算のワークフローにも着手していきたいですね。
そして、会計だけでなく、人事労務や申告も含めたバックオフィス全体の業務改善、効率化まで広くお手伝いをして、いずれは地域の事業者のみなさんのお役にも立てればと思っています。
(取材・執筆:遠藤光太 編集:波多野友子/ノオト)