しかし、一見順風満帆に見える創業からの道のりは、実は大変険しいものでした。
三代目代表取締役として80年超の会社を事業承継した山田岳人氏と、ディビジョンリーダーの奥山喬士氏に、創業からの経緯とfreeeの導入による仕事や職場の雰囲気の変化についてお話を伺いました。
――設立の経緯や御社サービスへの想いを教えてください
三代目として創業から80年超の会社を事業承継。社員を解雇し問屋業を縮小した
山田 1937年創業の大都は今年で82年目の会社です。妻の祖父が金物工具商社を創業したのがはじまりで、大阪市生野区という、昔ながらの下町に会社を構えています。工具問屋として工具メーカーから商品を仕入れ、金物屋やホームセンターに卸していました。
大都に入社したのは28歳のころ。 結婚の挨拶のため妻の実家へ足を運んだところ、「娘はやるから会社継げ」と言われたのがきっかけです。1年後、リクルートを辞めて大都に入社しました。
入社当時に驚いたのは、それまで経験したことがない企業文化です。
発注書・納品書などの伝票が全て手書きで、紙の帳面を中心にすべての仕事が回っていました。工具問屋はお客さんごとに商品の価格が違います。価格確認のため、机の真ん中に置いた帳面を担当社員が全員で回し読みする。ドットコムバブルがはじけた2000年以降ですらそんな状態だったのです。
問屋は価格競争が大変厳しい業種です。懇意にしていた取引先があったとしても、ほかに少しでも安い仕入れ先があれば弊社との取引を中止して乗り換えられてしまう。毎日取引先へ足を運ぶのも日常茶飯事です。
社員には売上目標も与えられておらず、経営にも陰りが見えていた2007年。問屋業の従業員を全員解雇することに。「問屋業を縮小し、Eコマースに注力する」と会社の方向性を大きく変える意思決定をしました。苦渋の決断でした。
既存の卸売問屋の枠組みにとらわれず、ECサイトを開始
山田 問屋が卸売をやっているだけでは、今後も価格競争に巻き込まれてしまい、社員も僕でさえも夢も希望もない。考え抜いた末に始めたのがECサイトでした。
実は問屋業を縮小する2002年ごろから、既存の卸売問屋の枠組みにとらわれない商流を求めて、工具のECサイトを細々と始めていました。工具を扱う競合サイトがなかったため、少しずつ売れ ていきました。
昔からの慣習だった手形取引も減らしキャッシュフローも健全な状態にすることに成功。問屋業ではなく、ECサイトで社員を食わせていける状態になったのは2009年です。DIYに特化した実店舗「DIY FACTORY」を出店したのはそれから5年後でした。
オンラインとオフラインでDIYの楽しさを広めたい
山田 弊社は現在、DIYに関連するオンラインでの物販事業、メディア事業、コミュニティ事業を展開しております。
売り上げの主体はECサイト上での物販事業ですが、それだけでは私たちの実現したいビジョン、「らしさがあふれる、世界を。」を実現できません。
そこで、DIY文化を広く伝えるため、メディア事業やコミュニティ事業を手がけるようになりました。DIYをレッスン形式で学べ、DIYの楽しさが分かる体験型DIYショップ「DIY FACTORY」を東京・二子玉川に出店。ほかにも全国に216店舗ものホームセンターを展開する株式会社カインズと資本提携し、実際に体験できる店舗の全国展開を進めています。
今年から注力しているのは「DIY FACTORY GO!」という出張型DIYサービス。 地域のイベントや商業施設、自治体や企業のレクリエーションなどに私たちが「DIY FACTORY」を出張してお届けするものです。DIYは、「誰かが教えてくれたらやる」ような、きっかけがつかめておらず、踏み出せないお客様が圧倒的に多いもの。その道のプロである工務店さんと提携し、彼らが 先生となり、地域にDIYを広めるのが狙いです。実店舗と同じく、体験を届けることにフォーカスしています。
そのほかに展開しているのが子会社のGreenSnapが展開するアプリ「GreenSnap」。DIYをする人の多くは、ガーデニングにも興味を持っています。GreenSnapはInstagramのグリーン版といった立ち位置のサービスで、DIY自体の広がりとともに、ユーザーが急激に伸びております。
IPOを目指すため、ドキュメンテーションと内部統制強化に取り組む
山田 DIY FACTORYを東京に出店する計画をしていた頃直面したのは資金不足でした。
2014年頃から関西で資金調達に動いていたんですが、我々の見積もりでは3億円は必要だった。関西で手を上げてくださったVCの方からは最高で5,000万円とのお返事が。
その頃、たまたまお会いした東京のVCである、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下グロービス)と出会い、2015年に出資してもらうことが決まりました 。グロービスさんにも3億円が必要と伝えたのですが、「足りますか?」と言われて、結局4億円を出資いただくことに。東京と大阪では資金調達の困難性が全然違うなと実感しました。
IPOを目指す決断をしたのはその頃のことです。我々のビジネスは、パブリックドメインだと考えているからです。DIYは「衣・食・住」の住に関わるビジネス。誰もが考える「生活をもっと良くしたい」という欲求に関わっているものですので、非常にパブリックなビジネスだといえます。IPOにより、会社もパブリックな存在となるのではないか、という期待があります。
奥山 上場を目指すことになり、まず最初に苦労したのはドキュメンテーションです。これまで80年以上積み重ねてきた企業文化はあるものの、ドキュメントとしてはあまり残っていません。
弊社はコアバリューを大事にする会社ですので、事業遂行に際して明確なルールをあえて定めていません。バリュードリヴンで自走できる組織を作るためにもルーティンワークのマニュアル化は必要不可欠だと考えています。内部統制の強化には苦労しながら取り組んでいます。
――freee導入のきっかけを教えてください
freeeのクラウドERPであれば自社ECサイトのデータもAPIで連携可能
山田 資金調達をした2015年頃に一度、ERPの導入を検討しました。しかし、大手会計システムはクラウド導入費用が数千万円と大変高額です。一旦はスタンドアローンの会計ソフトを使用していました。
そして昨年、いよいよというタイミングでクラウドERPを検討、2018年7月にfreeeを導入したんです。freeeはクラウドERPとしての完成度も素晴らしく、弊社のような、自社ECサイトを運営している会社のデータもAPIで連携可能。外部との繋ぎ込み部分が導入の決め手でした。
経費精算にかかる時間が半減。空いた工数でマネジメントに注力できるようになった
奥山 今までの会計ソフトでは、経理の社員と経営陣が分断されていたのが問題でした。経営陣に会計数値を報告するために印刷して報告していては、どうしてもスピードが遅くなってしまう。ECサイトの売上を日次で締めて経営陣にリアルタイムに共有する。クラウドERPとしてつながるfreeeの会計システムはまさに理想でした。
freeeを使って感じたメリットは、自動仕訳機能と経費精算です。
freeeは自動仕訳機能が素晴らしいです。以前と同じ仕訳なら自動ルール化して毎日自動で入力されます。仕訳の根拠資料となる証憑を添付できるのも便利です。資料を探す手間が掛からなくなりました。
経費精算もfreee上で全てが完結します。わざわざ別のグループウェアで稟議を上げたり、データ探しに時間を割く必要がなくなり、業務が効率化されました。おかげで日次の締め作業に掛かる時間は50%削減、月次単位でも1営業日削減できるよう、さら なるルーティンワークのマニュアル化と効率化を目指しています。
freeeを使うことで空いた時間を使い、内部統制の構築に注力しています。また、社員との1on1にも時間を割けるようになりました。いままでマネジメントの時間がなかったのですが、ヒアリングに割ける時間が増えました。組織としてのパフォーマンスを上げるためには傾聴が欠かせませんが、1on1を行い、社員の声を聞くことで会社が成長すると思います。
山田 freee導入は社内の雰囲気醸成にも影響を与えました。作業をしているときは集中したいでしょうし、しかめっ面になったり、声をかけづらい雰囲気になったりする。それに、バックオフィスはどちらかというと堅い印象がある。
そんな状態でしたが、freeeの効率化による工数削減によりできた時間で、現場の社員同士が直接話す機会は増えていると感じます。
今のバックオフィスは本当にいいチームになってきたなと思うんです。いいチーム運営をできてこそ、会社もいい運営ができるようになる。freeeを通じて支援チームのチームワークはいい感じに今なってきているんじゃないかなと思っています。
東京と大阪。拠点が離れていてもバックオフィス支援ができる
奥山 大都だけでなく、子会社のGreenSnapでもfreee会計とfreee人事労務を使っていますが、とても便利です。もともと一事業部だったGreenSnapは、営業とエンジニアだけで運営されており、バックオフィスに関わる社員がおりません。逆に弊社は東京にオフィスがありませんので、大阪のチームがバックオフィス支援できるのは大変便利です。
拠点が離れていても簡潔にまとまるのはfreeeの強みです。
――今後の展望について教えてください
生産性が高く、「最高に楽しい」バックオフィスへ
奥山 会計には過去会計と未来会計の2種類があります。過去会計が税務や税金に関わるとしたら、未来会計は財務・ファイナンス・経営判断に関わります。
本来、経理業務は未来会計の方に注力していくべきですし、そのためにも土台となる単純作業はテクノロジーで解決できるのが理想的です。
そのためにも生産性の高いバックオフィス体制を構築したいです。バックオフィスは単純作業に陥りやすいもの。私だったらやりたくないことをマニュアル化して効率を高め、考える仕事にリソースを割いていく。今後は経営判断に資する数値を瞬時に出せるようなチーム作りを目指したいです。
山田 freeeを使うことで、クリエイティブなバックオフィスを作りたいです。バックオフィスにはルーティーンワークの印象もあると思いますが、重視する弊社のコアバリューのひとつが「ENJOY」ですので、「バックオフィス、最高に楽しい」という状態にできるのが理想です。
合理的ではない判断を行うため、テクノロジーで解決できるものはテクノロジーに委ねる
山田 スタッフにはクリエイティブな仕事をして欲しいと考えており、テクノロジーで解決できる部分はテクノロジーに委ねて解決していきたいです。判断もAIに任せ、合理的でない判断だけ人がやっていく。仮に7割成功するというデータが出ていて、それを選ぶのがAIだとしたら、「残りの3割の方が面白いんじゃない?」 と、合理的でない意思決定をできるのが人間の役目です。 大都のビジネスではDIYというカウンターカルチャーを扱っていますし、あくまでもマイノリティ側だと理解しています。事業に関わるさまざまなアイデアや意思決定も、3割の方を選ぶ方が会社に合っているんじゃないかと思っています。
問屋業時代に苦労した経験から、ミッションに掲げる「ハッピートライアングル」の通り、今後、お客さま・お取引先様・弊社、三方よしのビジネスを構築したいです。
いま、大量生産・大量消費の時代から自分らしさを尊重する時代へと変化しています。しかし、まだまだ衣食住の「住」だけはあまり変化がありません。我々はDIYを通して「住」を軸としたライフスタイルの変化を起こしていくために、バックオフィスを日々進化させているのです。