「スマートキャリア」「しゅふJOB」などの人材派遣サービスや求人媒体を展開し急成長を遂げ、2020年にホールディングス体制へと移行した株式会社ビースタイル ホールディングス。
今でこそ上場企業並みの経理体制を確立していますが、かつて、決算の締めは常に遅く、経営分析などに着手する時間がほとんど取れていませんでした。そこで2019年にfreeeの導入を決めまし たが、当初は「大混乱だった」と、取締役CFOで経営管理本部長の加藤勝久さんは言います。
そうした状況をどのように打開し、現在の体制を築き上げてきたのか。ホールディングス体制になった今だからこそ感じているfreee導入のメリットなどとあわせ、加藤さんに伺いました。
経理人材不在で締めの遅れが常態化。会社の急成長に経理体制が追いつけない
ーーまずは御社の事業概要、グループ体制について教えてください。
加藤勝久さん(以下、加藤) 2002年にパートタイム型人材派遣サービス(現:しゅふJOBスタッフィング)を設立し、その後も人材派遣業を中心に事業を広げてきました。さらなる事業拡大と多角化、それに伴う経営人材育成などを目的に、2020年4月にホールディングス体制へと移行。現在、グループの経営管理に特化した持株会社ビースタイル ホールディングス、その傘下に6つの事業会社があります。全6社がfreeeを導入しています。
ーーホールディングス化にあたり、組織体制においてどのような点を重要視しましたか?
加藤 事業会社が各事業に向けてバラバラに突き進んでいくのではなく、グループ全体で統制の取れた運営を行っていくことです。経理に関しても同様の考え方で、事業会社は一切経理機能を持たず、グループ全体の経理を持株会社に集約しています。
ーーfreeeを導入したのはいつ、どのような目的だったのでしょうか。
加藤 まだホールディングス化を想定すらしていなかった2019年7月に導入しました。目的は、「決算の早期化」です。かねてより上場を目指していた当社にとって、決算の締めが遅いことが問題になっていました。本来は8営業日で締めたいところ、まったく間に合わないことが常態化していたのです。
ーー決算の早期化ができていなかった原因は、どのようなことだったのですか?
加藤 まず、経理の専門人材が不在だったことです。もちろん経理の日常業務を担当している者はいましたが、経験やスキルは十分でなく、ほとんど税理士さん任せになっていたんです。中小企業ではよくあることだと思いますが、一年の最後に税理士さんにまとめて締めてもらうのが常態化しており、月次決算の概念がなかったんですね。一方で会社は急激に大きくなり、ますます経理業務が追い付かなくなっていました。
システム切り替えの混乱期を乗り越え、3カ月で決算の早期化を実現
ーーそうした状況から経理体制を整えていった経緯を聞かせてください。
加藤 私自身は、当社にfreeeが導入されたばかりの2019年9月に入社したのですが、その時点ではまだ決算早期化は程遠く、経理部の社員から不満の声が次々と上がっているという状態でした。
事前の業務の設計や他の会計ソフトとの併用期間を設ける暇もなく、突貫でfreeeへの入れ替えを行ったことが原因でした。
ーー具体的にはどのような声があり、どのように解消されたのでしょうか。
加藤 例えば、ワークフローの中で承認経路を指定する際、申請フォーマットが多くあり、その承認者を都度設定するのが大変だという声が上がりました。しかしこれは、freee人事労務の無料プランの中にある、組織情報をインプットできる機能を使うことで解消されました。役職に人が紐づくことで承認経路が自動で設定されるので、バイネームで選択する必要がなくなったのです。
こうしたfreeeの便利な機能について、私自身も最初からすべてはわかりませんでしたので、freeeの担当の方が何度も足を運んで教えてくれたのはありがたかったです。課題点を集約して提出すると、解決策やソフト改修までのスケジュール感を教えてくれたため、混乱状態は着実に良い方へ向かっていきました。そうしているうちに経理メンバーもfreeeのインターフェースに慣れていき、問題なく運用できる状態に落ち着きました。
ーーそうして課題を乗り越えた上で、決算早期化を進めていったのですね。
加藤 はい。これまでにいくつもの企業のIPO準備支援に携わってきた私から見て、上場準備企業の混乱は割とよくある光景という印象でした。しかし、前述したよう に当社には経理の専門家がいなかったこと、当時の売り上げ規模が100億円ほどとボリュームが大きかったこと、ホールディングス体制への移行など様々な要因が重なり、このままでは先が見えないとも感じていたのです。
そこで、同年11月に会計コンサルタントを入れ、freeeを正しく活用したうえで決算の早期化ができる体制づくりに踏み切りました。その結果、3カ月間ほどで、連結決算を8営業日で締まる体制を確立することができたのです。
業務の効率化・省力化と統制面の強化、両面で感じられるfreeeのメリット
ーーfreeeを導入して良かったと感じていることを聞かせてください。
加藤 まず、時間や場所に縛られず仕事ができるようになったのは大きなメリットだと感じています。ワークフローも会計も完全にクラウド化されたので、自宅や移動中でも閲覧や承認作業が可能となり、その作業のためだけに出社する必要がなくなったので大変助かっています。
また、オペレーションが大幅に効率化されました。例えば精算業務について、これまでは取引先から来る紙ベースの請求書を見ながら、一件ずつ精算システムに打ち込む手間がかかっていました。今は領収書をPDF化してfreeeにアップロードすれば、それ以降はほぼ自動です。後から確認をする際も、わざわざ紙を探し出さずにfreeeで手軽に 閲覧できます。
経費精算に関しても、紙やエクセルでの処理がなくなりましたね。特に交通費精算に関して、交通費検索と定期区間控除の機能が便利で、申請する側の社員からも楽になったという声を聞いています。
freeeは会計システム・経費精算システム・ワークフローが一体型となっており、経費を精算すれば別途打ち込みすることなく会計にも反映されます。こうした連携が、業務全体の効率化に大きく貢献してくれていると感じますね。
ーーホールディングス体制になってからは、いかがでしょうか。
加藤 持株会社と各事業会社で「freee会計 エンタープライズプラン」を利用しています。ホールディングス化により連結精算表を作成する必要が発生しましたが、freeeを導入していたおかげで、最初からボタン一つでスプレッドシートの連結精算表に数値が反映される仕組みが作ることができました。手動で転記しなくて済むので大変便利ですね。
また、効率化だけでなく統制面でも役立っています。各事業会社からの稟議は持株会社での承認制にしているのですが、freeeの「各種申請」の中の機能を使うと、承認がないと強制的に支払いができない仕組みになります。ホールディングス化を想定すらしていない時期に導入したfreeeですが、結果的にグループ全社での省力化、そして統制面での強化に繋がっており、現在の体制になってさらに有用性を発揮してくれていると感じます。
ーーfreee活用によって時間や労力が削減されたぶん、できるようになったことはありますか?
加藤 決算を適切に締められる体制が構築でき、なおかつ会計業務の効率化を実現できたことで、経営分析に1~2日ほどかける余裕ができました。前月と比較しての増減分析や、毎月の勘定科目明細の作成などに時間をかけることが可能になったのは、経営面において大きなプラスだと言えます。
経理業務の精度を上げ、本格的に上場を目指していく
ーーこれまでを振り返って、当初の目標は達成できたと感じられますか。
加藤 はい。まずfreee導入の最初の目的だった決算の早期化は、前述した通り3カ月で実現できました。ホールディングス化を決めてからは、連結決算が滞りなくできる仕組みづくりを目指していましたが、それもこの1年で達成できています。結果的に、かねて会社として目指していた「上場可能な体制作り」を、ほぼ実現できたと感じます。
ーー今後、バックオフィス改善に関して行っていきたいことを聞かせてください。
加藤 より本格的に上場を目指していきたいですね。監査法人の監査にしっかり堪えられるよう、売掛金や未払金など債権債務の適切な残高管理を徹底していくなど、精度を上げていきます。そのようなことを考える上でも、freeeには売掛金と未払い金を取引先別に管理できる機能があるので助かりますし、債権債務と仕訳が連携しているのも良いですね。
また、当グループの経 理機能はすべて持株会社に集約していると言いましたが、実は何千人もいる派遣社員への支払業務を担当する営業事務部門だけは、依然事業会社の中にあります。グループ全体の支払業務が持株会社と事業会社に分かれている現状を、持株会社に集約することが今後の課題です。これからもfreeeを活用しながら、より良い経理体制の構築やグループ運営を追求していきたいですね。
(取材・執筆:北村朱里 編集:波多野友子/ノオト 撮影:波多野匠)