ISMSとは?仕組みの概要や目的、認証を取得するメリットを解説


最終更新日:2025年1月22日

ISMSとは?仕組みの概要や目的、認証を取得するメリットを解説

インターネットが普及した現代では、各企業が万全な情報セキュリティを構築し運用する必要があります。こうした情報セキュリティを確保するために有用なのが、「ISMS」です。ISMS認証を取得すれば国際規格を満たしていることになるため、顧客や取引先などの第三者に対して安全性や信頼性をアピールできます。

本記事では、ISMSの基礎知識、ISO/IEC 27001やプライバシーマークとの違い、ISMS認証を取得するメリットなどについて解説します。不正アクセスなどのサイバー攻撃から企業の資産を守り、安全性の高い経営を実現するため、ISMSについて正しく理解しておきましょう。

目次

ISMSとは

ISMSとは「Iinformation Security Management System」の頭文字を取った言葉で、企業や組織の情報セキュリティにおけるさまざまなリスクを管理する仕組みのことです。

ISMSに準拠した計画の立案、対策の実行、運用の整備やマネジメントによってリスクを適切に管理できれば、顧客や取引先などに安全性や信頼性をアピールできます。

ISMSの役割は、企業のリスク管理によって情報資産の漏えいを防ぎ、「機密性」「完全性」「可用性」の3要素を維持することです。インターネットの普及によって高度情報化社会となった現代において、企業には情報資産を守り、適切に管理することが求められています。

また、ISMSの適切な構築・運用はリスク管理といった「守りの経営」だけでなく、情報を事業戦略に活用したり企業の競争力を高めたりといった「攻めの経営」にも欠かせません。

ISMSの目的

ISMSの目的は、企業が持つ情報資産を漏えいや改ざんなどのリスクから守ること、そしてまた情報資産を有効活用できる仕組みの整備です。情報の機密性・完全性・可用性を適切に維持することは、リスクを十分に管理できていることの証明にもなります。

機密情報の漏えいは企業の信頼を一発で損なう恐れがあり、経営活動を行うにあたって致命傷となり得ます。もちろん悪いのはサイバー攻撃を行う側です。しかし、世間から「適切な対策を講じていない企業」にも冷たい視線が向けられるのはいうまでもありません。

不正アクセスなどのサイバー攻撃によってこうしたダメージ・損失を被らないためには、情報セキュリティの強化が欠かせないのです。

また、ISMSの利点はリスク管理にとどまりません。企業の情報資産は経営に役立てることができます。データの活用による業務効率改善や新しい価値の創造・提供は、企業の成長戦略としても重要な要素です。こうした情報活用にもISMSは有効といえます。

ISMSとISO/IEC 27001の違い

ISO/IEC 27001は、ISMSの構築・運用に関する方法を定めた国際規格です。企業がISMSを構築・運用する際には、ISO/IEC 27001で定められた要求事項をクリアしなければなりません。つまり、いくら自社で決めたルールに沿ってセキュリティ体制を整備・強化しても、国際規格の要求を満たさなければ安全性・信頼性をアピールできないということです。

対外的に安全性・信頼性を主張したいなら、財団法人日本情報処理開発協会が定める評価制度により、基準を満たしていることを認めてもらう必要があります。審査によってISO/IEC 27001の要求事項をクリアしていると見なされれば、「ISMS認証」が与えられます。

財団法人日本情報処理開発協会が定めるISMS認証は、JIS Q 27001を基準にしています。JIS Q 27001は日本国内向けの規格ですが、内容はISO/IEC 27001と共通しているものがほとんどなので、両者に大きな違いはありません。

ISMS認証とプライバシーマーク制度の違い

プライバシーマーク制度とは、情報資産の中でも「個人情報」に特化した認証制度です。取得すると、企業が個人情報を適切に取り扱い管理できていることの証明になります。

ISMS認証とプライバシーマーク制度の大きな違いは、保護対象の範囲です。ISMS認証は企業の情報資産全般を対象としており、プライバシーマーク制度は企業が保有する個人情報を対象としている点が特徴といえます。

そのほかの違いは、下記表のとおりです。

ISMS認証プライバシーマーク制度
規格国際標準規格日本産業規格
保護対象企業内のすべての情報資産企業内のすべての個人情報
認証範囲事業所・部署(部門)単位で認証取得できる企業全体で取得できる
審査内容保護対象の機密性・完全性・可用性は適切に管理されているか保護対象の取り扱い・管理が適切に行われているか
有効期限3年間(毎年継続審査あり)2年間
取得企業の特徴・BtoB企業
・大手との取引が多い企業
・BtoC企業
・直接ユーザーとやりとりするケースが多い企業

ISMSで重視される情報セキュリティの3要素

ISMSでは「機密性」「完全性」「可用性」を重要視しています。この3つを維持することが、情報セキュリティにつながるためです。なお、3つの要素は日本規格協会により、下記のように定義付けられています。

◆情報セキュリティにおける機密性・完全性・可用性の維持

機密性認可されていない個人、エンティティ又はプロセスに対して、情報を使用させず、また、開示しない特性
完全性正確さおよび完全さの特性
可用性認可されたエンティティが要求したとき、アクセス及び使用が可能である特性

出典情報マネジメントシステム認定センター「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステムとは)」

なお、これら3つの要素を維持するには、以下の取り組みを行う必要があります。そうすることで、サイバー攻撃や情報の漏えいを防ぎ、安全かつ信頼される企業を目指せるでしょう。

情報セキュリティの3要素を実現するための活動

  • セキュリティリスクの洗い出し
  • 対応すべきリスクの優先順位付け
  • リスクに対するセキュリティ施策
  • セキュリティに関する社内ルール作り

機密性

情報セキュリティにおける「機密性」とは、情報を保護し、許可された人だけがアクセスできるよう制限をかけた状態を保つことです。アクセス権のない者に対しては、非公開の状態または使用不可の状態を保つことで秘密を保持します。

たとえば、個人情報や機密情報といった機密性の高い情報は、権限を持つ限られた人員(役員・担当部門の社員など)のみがアクセスできるよう、パスワードによる保護やアクセス権限を管理します。このように、機密性を維持することが企業の信頼性を高めることにつながります。

完全性

「完全性」とは情報が正確であり、改ざんされていない状態を保つことを意味します。あるべき情報がすべてそろっており、不具合や欠損がなく、内容も常に最新の状態を維持しなければなりません。完全性が損なわれると情報の正確さや信頼性が失われてしまうことから、情報セキュリティにおいて重要な要素であるといえます。

完全性を維持するには、不正な改ざんや破壊から情報を保護する必要があります。そのため、社外の取引先に契約書の内容を確認してもらう際は、編集できない状態に設定するなどして完全性を担保しましょう。

可用性

「可用性」とは、有用であることを指す言葉です。情報セキュリティの文脈においては、許可された人が必要なときに情報やシステムにアクセスし、利用できる状態を維持することを意味します。つまり、情報を必要とする人がいつでもその情報を入手し・活用できるようにしておくことが重要という考え方です。

可用性を高めるには、情報を適切に管理するほか、定期的にバックアップを取るなどの対策が不可欠です。たとえば、過去の請求書などの重要な情報は、主要な保管場所だけでなく別の場所にもコピーを保存しておくことで、万が一データが破損した際にも速やかに復旧できます。

可用性が損なわれると業務に必要な情報にアクセスできなくなり、事業の継続性が脅かされる恐れもあります。可用性の維持は、情報セキュリティにおいて欠かせない要素です。

ISMS認証を取得するメリット

企業は、情報セキュリティを適切に構築・運用することで、保有する情報資産の安全性や信頼性を高められます。国際基準であるISMS認証を取得する主なメリットには、以下の6つが挙げられます。

ISMS認証を取得するメリット

  • 情報セキュリティのリスクを低減できる
  • 組織内の意識改革に寄与する
  • 業務効率の向上につながる
  • 対外的に安全・信頼をアピールできる
  • 継続的に改善が図れる
  • IPO の準備としても有効

いくら情報セキュリティシステムを構築しても、独自の観点・基準では第三者の信頼を得られません。社外の取引先や顧客が安心できるよう、ISMS認証の取得を検討しましょう。

情報セキュリティのリスクを低減できる

ISMS認証の取得は、情報セキュリティのリスク低減につながります。ISO/IEC 27001の要求事項では、外部からの攻撃だけでなく内部での情報漏えいや紛失などにも対応しているため、包括的な情報セキュリティ対策が可能です。セキュリティ事故の防止はもちろん、事故発生時の被害を最小限に抑える効果が期待できます。

情報セキュリティの事故が起こると業務停止や倒産のリスクもあるため、セキュリティレベルを高めることは、企業そのものを守ることにも寄与します。

組織内の意識改革に寄与する

ISMS認証の取得は企業全体で取り組むものであり、従業員の教育、認識の一致なども重要なポイントです。そのため、認証取得の過程で社内全体の情報セキュリティに対するリテラシーを高めることができるでしょう。

また、遵守すべき法令についても学べるため、コンプライアンス意識の向上も期待できます。企業全体が同じ方向性を共有することで、情報セキュリティ対策をより効果的に進められます。

業務効率の向上につながる

ISMSの認証審査では、企業の業務内容や手順についてのヒアリングが行われます。普段は特段意識せずに行っている業務や手順を一つひとつ確認することで、業務における問題点の発見や把握、改善が可能です。曖昧になっていた作業をマニュアル化したり、不要なルールを廃止したりすることで、業務効率を改善できるかもしれません。

また、認証審査では情報通信機器などの洗い出しや一覧化も行うため、情報資産の状況が明確になります。こうした取り組みによって企業全体の業務効率および生産性が高まるという側面もあります。

対外的に安全・信頼をアピールできる

ISMS認証は国際基準である「ISO/IEC 27001」に基づいているため、認証の取得は自社のセキュリティ管理体制が国際基準を満たしていることの証明になります。セキュリティ強化に取り組んでいることのアピール材料として、その影響力は大きいといえるでしょう。

また、官公庁の入札案件では、ISMS認証の取得が参加企業の必須条件になっている例もあります。同業他社との差別化を図り、企業競争力を高めるためにも有効です。

継続的に改善が図れる

ISMS認証の有効期限は取得から3年間です。その間は毎年審査機関が企業を訪問し、マネジメント運用状況を確認するための審査を実施します。基準をクリアするためには、継続的に改善活動を実施しなければなりません。

改善活動を継続する中で情報セキュリティ対策の質は高まり、企業価値も向上していきます。

IPO の準備としても有効

IPO(新規発行株式の上場)を目指す企業にとって、ISMS認証の取得は大きなメリットになります。上場に向けては、将来的な規程の整備をはじめとしたIT統制の実施が不可欠です。ISMSの構築時に情報セキュリティの管理体制や規程が整備されることから、結果的にIT統制にかかる工数の削減が期待できます。

情報漏えいなどの重大インシデントが発生した場合、IPOの延期や中止につながる恐れもあります。その点でも、ISMS認証の取得はIPOに向けた万全な組織体制の構築に役立つといえるでしょう。

ISMSの管理に有効なツールはある?

ISMSの構築・運用・維持を効率的に行うためのソフトウェアとして、ISMS管理ツールがあります。ISMS管理ツールの導入により、ISO/IEC 27001の要求事項に沿った文書作成などの作業を自動化できるため、ISMS認証の取得が容易になります。

従来、ISMS認証を取得するためには、ExcelやWordなどで書類作成を行う必要がありました。しかし、ISMS管理ツールを活用すればこれらの作業を自動化でき、ISMSの管理・運用を効率化できます。

なお、ISMS管理ツールはISMS認証の新規取得だけでなく、ISMS認証の更新作業の効率化にも役立つため、ISMSの継続的な改善支援も見込めます。

ISMS管理ツールで自動化・効率化できること

ISMS管理ツールでは、ISMS文書の作成やリスクアセスメントの分析などさまざまな作業を自動化・効率化できます。主にできることは、以下のとおりです。

ISMS文書の作成
  • ISMS管理ツールに搭載のテンプレートを使用してISO/IEC 27001の要求事項に沿った文書の作成を自動化
  • 文書のバージョン管理や更新履歴の追跡も容易
リスクアセスメントの分析
  • 企業の資産、脅威、脆弱性を特定し、リスクを自動的に分析
  • リスクの優先順位付けと対応策を提案
  • 継続的なリスクモニタリング
従業員向けの教育コンテンツの配信
  • 情報セキュリティに関する教育コンテンツを自動的に配信
  • 従業員の学習状況を追跡し、理解度の低い部分に対してフォローアップを実施
セキュリティチェックシートの配布・集計
  • セキュリティチェックシートの配布と回答の集計を自動化
  • 集計結果から課題を特定し、改善策を提案
  • 改善策状況を追跡
内部監査の結果収集・分析
  • 内部監査の実施をサポート
  • 監査結果を自動的に収集・分析
  • 監査報告書の作成などを効率化
改善活動
  • リスクアセスメントや内部監査の結果に基づいた改善策を提案
  • 改善活動の進捗管理や効果の測定、報告書の作成なども自動化
インシデント対応
  • セキュリティインシデントの検知、通知、対応状況の記録などを自動化
  • インシデントの傾向分析や再発防止策を提案

ISMS管理ツールを選ぶ際は、導入目的を明確にすることが重要です。「ISMSの新規取得を効率的に行いたい」「ISMSの運用を効率化したい」「グローバル規格で認証を取得したい」など、目的に応じたISMS管理ツールを選びましょう。

よくある質問

ISMSとはそもそもどういうもの?

ISMSとは、企業や組織の情報セキュリティにおけるリスク管理を行う仕組みを指します。企業の情報資産を守り、また経営に活用することで企業の競争力を高めることにもつながります。

詳しい内容は記事内の「ISMSとは?」をご覧ください。

ISMS認証を取得するメリットは?

ISMS認証を取得するメリットには、情報セキュリティのリスク低減、組織内の意識改革、業務効率の向上、対外的なアピール力向上、継続的な改善の実現、IPO準備の効率化などが挙げられます。

詳しくは記事内の「ISMS認証を取得するメリット」を参考にしてください。

ISMSとISO/IEC 27001の違いは?

ISMSは、国際規格に準拠して情報セキュリティにおけるリスク管理を行う仕組みです。一方、ISO/IEC 27001とはISMSの基準となる国際規格で、情報セキュリティの構築や運用に関する要求事項をまとめたものを意味します。審査の結果、ISO/IEC 27001の要求事項をクリアしていれば、ISMS認証が与えられます。

詳しくは記事内の「ISMSとISO/IEC 27001の違い」を参考にしてください。

まとめ

ISMSとは、企業や組織の情報セキュリティに関するリスクをマネジメントする仕組みのことです。国際規格に則って「機密性」「完全性」「可用性」の3つの要素を維持することで、情報資産の安全性・信頼性の向上につながります。

自社の情報セキュリティ管理体制を適切に構築・運用したい企業は、国際規格であるISMS認証の取得をおすすめします。また、認証取得を容易に行いたい場合は管理ツールを活用するのが効率的です。リスクアセスメント分析やインシデント対応などを自動化し、企業の情報セキュリティの信頼性や業務効率向上に役立ててください。

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