会社設立には創業者が決めなければならない事項がたくさんあります。それぞれを理解しておかなければ、書類に必要な項目が足りず、変更のために手間とコストがかかってしまう可能性があります。
本記事では、会社設立する際に知っておきたい、全体の流れや必要な書類・費用ついて詳しく解説します。
以下の診断チャートでご自身のタイプに当てはまる箇所から読んでいくと効率的です。
▶︎ 会社設立を考え始めた方必見!
会社を立ち上げる前に知っておきたい情報をまとめました。
会社設立の流れや株式会社の設立方法をわかりやすく解説した記事はこちら
目次
【登場人物】
新興 知業さん
「社会をよりよくするサービス」の提供に熱意を燃やすIT企業の会社員。資金の見通しが立ち、いよいよ会社設立に向けて動き出そうとしている。書類作成が苦手。
設楽 杜さん
さまざまな会社の設立を手伝ってきたベテランの司法書士。友人から新興さんが困っていることを聞きつけ、駆けつけた。
会社設立はどうやって行う?
いよいよ思い描いていたサービスが世に出せる。会社の名前も決めたし、準備万端!
……って思っていたんだけど、会社ってどうやったら設立できるんだろう。事務所を借りて、会社の看板を掲げればいいのかな?
いきなり事務所を借りるのは、時期尚早ですよ。まずは、会社の設立を法務局に届け出る「登記申請」が必要です。登記申請を完了するまでは、長い道のりです。一緒に学んでいきましょう!
会社設立の流れ
会社設立に必要な作業は、
- 「設立のための事前準備」
- 「定款(ていかん)の作成と認証」
- 「資本金の払込」
- 「登記申請」
書類作成などを効率的に進められれば、設立までにかかる期間は2~3週間ほどでしょう。
まずは、どんな作業が必要なのか簡単に見ていきましょう。必要な書類については後ほど詳しく解説していきます。
設立のための事前準備
どのように会社を発展させたいか、事業やサービスなどを具体的に考えながら株式会社や合同会社といった会社形態を決めます。さらに、登記申請に必要となる社名(商号)や事業目的、本社所在地なども考えましょう。
<参考記事>
資本金の集め方も決めておきましょう。集め方により設立方法が変わってきます。
→株式会社を設立する前に決めておくべき5つのこと
定款の作成・認証
定款とは、会社のルールをまとめた文書のことです。会社法に則って「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」を定める必要があり、事業目的や本社所在地、資本金、発行可能株式総数などを規定します。
なお、株式会社を設立する場合は、公証役場で定款を認証してもらう必要があり、費用と時間がかかることにも注目しましょう。
資本金の払込
2006年に施行された新会社法により、資本金が1円であっても会社の設立が可能となりました。とはいえ、資本金額は企業の規模や体力の目安として判断されることが多いため、金融機関や取引先からの信用に関わる場合があります。
登記申請
「商業登記」と呼ばれる法人登記を法務局に申請することで、会社として認められます。なお、役員や本社所在地などに変更が生じた場合は、変更登記が必要です。
<参考記事>
役員の生命保険やベンツでさえも経費にすることができます。
→はじめての起業と会社設立。10年つづく株式会社のつくりかた
発起人1人で小規模の株式会社を最短で設立するための流れをご紹介します。
→準備スタートから5日で完了。最短の時間で行う会社設立の流れ
会社設立に必要な費用
資本金額が少なすぎると金融機関や取引先からの信用に関わると言いますが、会社の設立に必要な費用は全部でいくらぐらいなんですか?
総務省の統計によると、会社設立に必要な全体の費用の平均は、約500万円です。一つひとつの内訳を見てみましょう。
会社を設立するために必要な費用は次の通り。
資本金
資本金は会社が簡単に倒産する恐れがないかという信用度に関わってきます。
会社を設立するには資本金額は1円からできますが、あまりに少ないと、メガバンクや都市銀行などの口座開設を断られたり、金融機関や自治体からの融資を断られたりするケースがあります。また、開業したばかりで実績がないため、資本金額が少ないとオフィスの賃貸契約の審査に通りづらくなることも。
設立後、すぐに仕事を受注したとしても、納品や取引先からの入金は翌月から翌々月になることが考えられます。資本金は開業後3カ月から半年間程度の運転資金を担保できるような金額にするのが一般的です。
登記申請にかかる費用(創立費)
株式会社では約25万円、合同会社では約10万円が必要です。電子定款を利用すれば、このコストを下げることが可能。これ以外にも、設立登記にかかる司法書士や行政書士などへの報酬費用や創立事務所賃借料などが必要になる場合があります。
開業費
開業費とは、会社設立(登記手続終了後)から営業開始までにかかる費用のことを言い、起業時の人数や業種により必要な金額が異なります。たとえば、ウェブ関連の事業で1名が自宅で開業する場合はPC代などの開業費がおよそ12万円程度必要です。飲食店などの場合は、仕入れや設備投資など、さらに費用がかさみます。
<参考記事>
会社設立の際の費用を抑えるには、開業費の出費を見直していく必要があります。
→開業費、1人は12万円、複数人は200万円から。会社設立に必要な費用一覧
総務省の統計によると、会社設立に必要な全体の費用は、平均約500万円。内訳は資本金が約300万円、創立費や開業費などで約200万円です。
平均額は約500万円でも、開業費は業種によってかなり幅がありますね。私が設立する会社では、複数人が働く予定で、取引先と打ち合わせがしやすい都市部に事務所を構えようと思っています。
複数人で開業する場合は、PCやデスクなどの備品が人数分必要です。また、全員出社して同じオフィスで働くなら、事務所の費用も考えなければなりません。シェアオフィスなど費用が抑えられる方法もあるので、自分の事業の特性と合わせて考えていきましょう。
<参考記事>
銀行印などが必要になりますので、会社設立用のハンコをセットでそろえておくといいでしょう。
→約6万円から設立可能!?会社設立に必要な費用とは?株式会社・合同会社別に解説
登録免許税の算出方法は、資本金を使い算出されます。
→会社設立にかかる「登録免許税」についてわかりやすく解説
設立準備開始から会社設立時、営業開始時までの間で発生する時期によって費用の勘定科目は異なります。
→会社設立時の費用は経費になるのか? 仕訳も含めて紹介します
合同会社と株式会社
新興さんの設立する会社は株式会社と合同会社、どちらの形態を予定していますか?
会社と言えば株式会社のイメージがあるんですけど。それ以外にも種類があるんですか?
一般的には、株式会社のほかに、合同会社を選ぶことがあります。2つの違いを詳しく見ていきましょう。
合同会社と株式会社の違い
合同会社と株式会社で大きく異なる点は、株式上場ができるかできないか、そして事業拡大が進んだとき、所有者と経営者が分離するかにあります。
所有者と経営者が分離するって、どういうことですか?
株式会社は、所有者である株主と業務執行にあたる経営者が分かれた会社形態です。このため、事業を拡大する際に株主を新たに募集することでき、投資家から資金をたくさん集めることができます。一方、合同会社は、出資者自らが業務執行に当たらなければならず、所有と経営が同一の会社形態。株式会社のような資金調達はできません。
会社形態の種類は大きく分けて、「株式会社」と「持分(もちぶん)会社」があり、「合同会社」は持分会社に区分されます。
それぞれのメリットとデメリットは後述しますが、違いは所有と経営が分離だけでなく、登記申請にかかる費用にも表れます。
株式会社 | 合同会社 | |
収入印紙代 | 40,000円 ※電子定款の場合は無料 | 40,000円 ※電子定款の場合は無料 |
認証手数料 | 30,000〜50,000円 資本金額によって異なる(後述) | - |
謄本手数料 | 2,000円 | 2,000円 |
登録免許税 | 150,000円〜 または 資本金額×0.7% どちらか高い方 | 60,000円〜 または 資本金額×0.7% どちらか高い方 |
定款には、紙の定款とPDF化した電子定款があり、電子定款の場合は定款用収入印紙代が不要となります。
一見電子定款の方がお得に感じますが、電子定款はPDF化するためのソフトやマイナンバーカード、ICカードリーダライタ、署名プラグインソフトなどの準備が必要となり、収入印紙代と同等の費用がかかる可能性があります。
<参考記事>
会社の種類は?4つの形態の違いを比較
合同会社のメリットとデメリット
合同会社は、2006年に会社法が改正された際、創設された会社の種類で、英語ではLLC(Limited Liability
Company)と表記されます。株式会社と比べて設立の費用が抑えられる点が大きなメリットで、上場する予定がないビジネスに適しています。
具体的にどのようなメリットがあるのか見てみましょう。
メリット1:会社設立にかかる費用が安い
合同会社の場合、出資者と経営者が同一であることから定款の認証が不要です。電子定款にすれば定款用収入印紙代が必要なくなるため、最安値だと6万円で会社の設立が可能になります。
なぜ、合同会社は定款の認証が必要ないのでしょうか。それは、所有者と経営者が同一のためトラブルが生じにくく、定款を証拠書類として確認する可能性が低いからです。
一方、株式会社の場合は所有者と経営者が分離しているため、定款で定めた内容でトラブルが生じることがあります。その際、定款は証拠書類として重要な役割を担うため、第三者に定款が正当な手続きで作成されたものを証明してもらう必要があるのです。
メリット2:経営上の事務作業が簡単・低コスト
株式会社と違って決算公告が義務付けられておらず、毎年の決算を公告するコスト(官報掲載費の6万円など)や手間が省けます。
また、合同会社の役員には任期がないため、重任登記にかかる費用(1万円~3万円)も抑えられます。
メリット3:利益分配と経営の自由度が高い
株主総会を必要としないため、経営の意思決定が迅速に行えます。また、出資の割合とは関係なく利益分配ができます。
費用が安くて、事務作業も簡単。合同会社ってメリットだらけですね。しかも、経営の自由度が高いのも理想的です!
合同会社にもデメリットはあるんですよ。たとえば、メリットの一つとして挙げた「利益分配が自由」という点は、社員同士でトラブルが生じるリスクもあります。会社形態はデメリットも把握したうえで決めてくださいね。
デメリット1:社会的信用度が低い
財務情報を開示する決算公告が義務付けられていないことから、社会的信用度が低いと言えます。
金融機関からの融資や企業間の取引を断られるケースがあるので注意しましょう。
デメリット2:人材が集まりにくい
会社を成長させるには優秀な人材を採用することが大切ですが、合同会社は知名度が低く、人材が集まりにくい可能性があります。
デメリット3:株式上場ができない
合同会社は株式上場させることができません。将来上場を考えているのであれば、株式会社を選択すべきでしょう。合同会社から株式会社への変更は、出資者全員の同意によって可能になります。
株式会社のメリットとデメリット
株式会社は、会社の所有者である株主と業務執行者である経営者が分かれた会社形態です。どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
メリット1:社会的信用度が高い
合同会社と比べて守らなければならない法律の規制が多く、社会的信用度が高いと言えます。そのため、金融機関からの融資や助成を受けやすく、事業拡大の際には人材募集の場面でも有利に働きます。
また、所有者と経営者が分離しているため、もし株主や経営者が亡くなったとしても、会社の信用や財産を守り、円滑な事業継続が望めます。
メリット2:資金調達が有利
金融機関からの借り入れや債券のほかに、株式発行で資金調達ができるのが特徴です。また、さらなる事業拡大を考えている方にとっては株式上場ができる点も大きなメリットと言えます。
合同会社にしようと思ったけれど、企業に取引を断られるのは困っちゃうなぁ。株式会社なら、会社の成長を見越した資金調達もできるし、やっぱり株式会社にしようかな。
株式会社は、決算公告の義務付けや役員の任期など、必要な書類や手続きが複雑化していきます。手間とコストをきちんと把握して、見極める必要がありますね。
デメリット1:創業費が高い
定款認証の手数料や登録免許税の違いから、株式会社の設立に必要な創業費は約25万円。合同会社は約10万円のため、比べると2倍以上の費用がかかります。
デメリット2:決算公告が義務付けられている
決算期ごとに業績を公表する決算公告が義務付けられています。業績が好調であれば取引先や株主への信用につながりますが、赤字が続いた場合は信頼を失うことにつながります。
また、決算公告は国が発行する機関誌「官報」や日本経済新聞、自社ホームページに掲載する必要があり、それぞれ費用がかかります。決算公告の怠りや不正をあった場合は100万円以下の「過料」に処されることがあります。
デメリット3:役員の任期がある
合同会社は役員の任期がありませんが、株式会社の場合は役員を再任した時でも登録免許税がかかります(資本金1億円以下の時、1万円)。
また、役員の任期は最長10年までと定められているため、会社を長く経営するのであれば、役員の変更に関する登記が必要になります。
デメリット4:定款の変更に手間とコストがかかる
定款の変更は、まず株主総会で特別決議を行い、株主総会の内容を議事録にまとめます。登記を必要とする定款変更の場合、法務局にて「定款変更の登記」を行います(費用は3万円~6万円)。
定款の内容は税務署に届けなければならない場合があります。
どちらもメリット・デメリットがあるんですねぇ。ちなみに、合同会社から株式会社、株式会社から合同会社への変更はできますか?
会社法の施行を機に創設された制度により、組織変更は可能です。でも、手間とコストがかかりますよ。
大切なのは、身の丈に合った会社を考えること。上場を目標にするなら株式会社、知名度が低くてもデメリットにならない業種なら合同会社といった具合に考えてみましょう。
合同会社 | 株式会社 | |
メリット | ・会社設立にかかる費用が安い ・経営上の事務作業が簡単で低コスト ・利益分配と経営の自由度が高い | ・社会的信用度が高い ・資金調達が有利 |
デメリット | ・社会的信用度が低い ・人材が集まりにくい ・株式上場ができない | ・創業費が高い ・決算公告が義務付けられている ・役員の任期がある ・定款の変更に手間とコストがかかる |
会社設立に必要な資本金
会社って資本金を1円にしても設立できるんですよね。費用を抑えたいから、資本金は1円にしようかな?
安易に1円で設立すると、後から資本金の増資が必要になることがありますよ。資本金は、会社設立時に持っている自己資本(運転資金)のこと。会社同士の取引や金融機関との融資を受ける際の判断材料になることがあるんです。最低3カ月間は会社の売り上げがなくても事業が続けられる金額を設定したいですね。
資本金は、返済する必要のない純資産であることから、金額が大きければ大きいほど会社に財務上の余力があると判断されます。
2006年に施行された会社法によって、資本金は1円以上あれば、株式会社が設立できるようになりました。しかし、本当に1円で会社を設立してしまうと、取引先や金融機関によっては支払い能力に不安を感じ、取引自体を断るケースがあります(資本金は後から「増資」が可能ですが、費用が伴います)。
では、どのくらいの金額を考えればいいのでしょうか。業界や業態によって基準は異なりますが、初期費用にプラスして、およそ3カ月から半年間は売り上げがなくても事業を続けられる金額が一般的。総務省の統計によると、平均額はおよそ300万円です。
注意すべきは、税の負担額。資本金額で決まることを頭に入れておきましょう。
法人にかかる主な税金と節税のポイント
消費税
原則として、資本金が1,000万円未満である場合、1年間は消費税の納付が免除(免税事業者)。さらに、設立から6ヶ月間の課税売上高、もしくは支払った給与等の金額が1,000万円を超えない場合には、2年目も引き続き納付が免除される。
では、会社設立後のどの時点から消費税の納付が必要な課税事業者となるのでしょうか?
課税事業者となるのは以下のいずれかの場合です。
-
その事業年度の前々年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超える場合
簡単にいうと、「2年前の課税売上高が1,000万円をお超えているかどうか」で判定します。基本的にはこの判断基準となりますが、売上が急激に伸びたときは別の期間で判定する必要があります。それが「特定期間」というものです。 -
その事業年度の前事業年度の開始から6ヶ月間(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えていて、かつ、給与等支払額が1,000万円を超える場合
簡単にいうと、「前期前半(6ヶ月間)の課税売上高と給与等支払額の両方が1,000万円を超えているかどうか」が判断基準となります。
上記は、あくまでも原則的な考え方であり、例外的な扱いとなる場合もありますのでご留意ください。
住民税(自治体によって異なる場合があります)
資本金 | 従業員数 | |
50人以下 | 50人超 | |
1,000万円以下 | 70,000円 都道府県の法人住民税50,000円 + 市町村の法人住民税20,000円 | 140,000円 都道府県の法人住民税120,000円 + 市町村の法人住民税20,000円 |
1,000万円以上 1億円以下 | 180,000円 都道府県の法人住民税150,000円 + 市町村の法人住民税30,000円 | 200,000円 都道府県の法人住民税150,000円 + 市町村の法人住民税50,000円 |
登録免許税
株式会社の場合、資金金額を基準に登録免許税の税額が決まり、税率は資本金の1,000分の7。
ただし、その金額が15万円以下の場合は一律15万円。つまり、資本金が2,143万円以下であれば、一律15万円であることに注目しよう。
<参考記事>
個人資産のすべてを会社の資本金に当ててしまうのは危険です。
→資本金はどう決める?会社設立時に知っておきたい資本金の基礎知識
株式会社の場合、資本金額が基準となり登録免許税の税額が決まります。
→消費税がかかるのは1000万から。損をしない会社設立時の資本金の決め方
資本金の払込み方。振込の際に注意すべきなのが、通帳のコピーを用意する必要があることです。
→会社設立時の資本金の決め方と、決定した資本金の支払いの仕方
株主名簿
株主名簿とは、各株主に関する基本情報を記載した帳簿で、株式会社は必ず作成しなければなりません。たとえ株主の人数が1名であっても作成が義務づけられています。もし、株主名簿を作成しなかった時には、会社法第976条に基づき、100万円以下の「過料」が科される可能性もあります。
記載事項は、株主の氏名や住所、株式の種類、株式の取得日、株券の番号など。株式の相続や譲渡などがあった場合は、情報を更新する必要があります。
この「株主名簿」に法的様式はありません。インターネット検索するとさまざまなテンプレートがダウンロードでき、独自のフォーマットで作成できます。
<参考記事>
株主名簿は、株式会社等の登記申請をする場合に必要となります。
→株主名簿はどんなときに必要?名簿の記載事項と作成方法を紹介します
定款について
「定款」とは会社のルールを定めた憲法のような文書のこと。株式会社の場合、定款の作成だけでなく、公証役場で定款の認証が必要です。
会社の憲法って、なんだか難しそう……。 一度決めた定款を変更することはできるんですか?
公証役場で認証を受ける前であれば、もちろん自由に変更可能です。一方、認証を受けた後は、法務局に登記申請をする前であっても、再度認証が必要で時間と費用がかかるので気を付けましょう。
なお、会社設立後に定款を変更する場合、公証役場での再認証手続きは不要です。ただし、株主総会にて定款変更の決定をし、それを議事録に残す必要があるほか、変更内容によっては法務局にて変更登記が必要なケースもあります。
定款(ていかん)とは
定款っていうのは会社のルールのことなのか。じゃあとりあえず、月1回のランチミーティングと、作業の効率化について考えようかな……。
定款に記載するのは、そのような内容ではありません。会社法で規定されていて、内容は「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3種類に大別できます。
絶対的と相対的、任意的……? 意識が遠のきそうなほど難しい言葉に感じるんですけど。
たしかに難解に聞こえますが、3種類だけなのでしっかりと覚えましょう。
「絶対的記載事項」=必ず記載しないといけない内容
「相対的記載事項」=トラブルを回避するために記載したい内容
「任意的記載事項」=記載しなくていいが、記載しておくと明確になる内容
並べて比べるとわかりやすいかもしれませんね。
絶対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない事項のこと。一つでも記載が欠けると、定款が無効になるので注意しましょう。
<具体的な記載事項>
- 事業目的
- 商号(社名)
- 本社所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人(出資者)の氏名または名称およびその住所
- (発行可能株式総数)
<参考記事>
事業目的には3−5個の事業目的を記載しておきましょう。
→定款の事業目的の書き方について解説
事業目的を設定する一番の理由は「取引の安定性」を確保するためです。
→会社設立時につくる定款に書く「事業目的」とは
相対的記載事項
必ずしも記載しなくてよいですが、記載した場合にのみ効力が認められる事項のことです。下記に挙げた記載事項のうち1~4は、とくに会社に不利益となる可能性が大きく「変態設立事項」と呼ばれ、裁判所の選任した「検査役」の調査を受ける必要があります。ただし、現物出資と財産引受に限っては調査が不要となる条件(定款に記載された価格酢額が500万円を超えないなど)があります。
<具体的な記載事項>
- 現物出資(車や不動産など金額以外の出資)
- 財産引受(会社設立後に第三者から財産を譲り受ける契約)
- 発起人の報酬
- 会社の設立費用(会社に損害を与えるおそれがないものは除く)
- 株式の譲渡制限に関する規定(株式を渡す場合、取締役会や株主総会など会社の承認が必要か)
- 監査役や会計参与などの設置に関する事項
- 取締役などの任期に関する事項
- 株券発行の定め
- 取締役会の招集通知を出す期間の短縮 など
任意的記載事項
絶対的記載事項と相対的記載事項に該当せず、かつ違法性のない事項であれば任意で定めることができます。相対的記載事項との違いは、定款に載せなくても効力が認められる点です。
<具体的な記載事項>
- 事業年度
- 取締役や監査役など役員の員数
- 役員報酬の決め方
- 株主総会に関する事項(召集時期や議長など)など
定款の記載事項 | |||
種類 | 絶対的記載事項 | 相対的記載事項 | 任意的記載事項 |
概要 | 定款に必ず記載しなければいけない事項 | 記載は任意で記載した場合にのみ効力が認められる事項 | 絶対的記載事項と相対的記載事項には該当せず、任意的に記載された事項 |
内容 | ・事項の目的 ・商号 ・本社所在地 ・資本金額(出資財産額) ・発起人の氏名と住所 | ・株主名簿管理人 ・株主の譲渡制限に関する規定 ・株券発行の定め など | ・株主総会の開催規定 ・役員報酬に関する事項 ・配当金に関する事項 など |
<参考記事>
2018年11月30日より定款認証の方法が一部変更となり、「実質的支配者となるべき者の申告書」の提出が義務づけられました。
→会社設立に必要な定款(ていかん)とは? 概要や必須記載内容を解説
定款認証
合同会社は定款の認証手続きが不要ですが、株式会社を設立する場合は、公証役場で公証人に定款認証を受ける必要があります。
自分の会社の定款を、他人に認めてもらう理由って何だろう……?株式会社の場合、なぜ定款認証を行うのでしょうか?
先に挙げたように、株式会社は基本的に会社を所有する株主と経営者が分かれています。定款に書かれた内容について株主と経営者の間でトラブルが生じた場合、定款を証拠書類として確認することがあるんです。
トラブルはできるだけ起こしたくないなぁ……。たとえば、どんなことがあるんですか?
一例として挙げられるのは、取締役の解任です。解任を求める株主と、解任を認めない経営者がいたとします。合意できないから、争いますよね。でも、取締役の任期については、定款の相対的記載事項として記載しているはずなんです。このような場合に、定款が証拠書類として重要になります。なので、第三者に認証してもらい、間違いがないか確認してもらう必要があるんです。
そうしたトラブルは合同会社でも起きそうな気がしますが、株式会社だけで起こるんですか?
合同会社は所有者と経営者が同一人物ですから、この2つの間でトラブルはほぼ生じません。だから定款の認証も必要ないんです。
定款の認証は、本社所在地と同じ都道府県内にある公証役場で行います。公証役場は公証人が執務する場所のこと。公証人は、判事や検事などを長く務めた法律実務経験者で、かつ法務大臣が任命する公務員が担います。
公証役場の具体的な所在地はこちらから検索できます。(※2018年9月3日以降、全国すべての公証役場で電子公証サービスが受けられるようになりました)。北海道は道内の管轄区域が4地域に分かれているため、注意が必要です。
公証役場を訪れる際は事前に予約を取るようにしましょう。
定款には、紙の定款と電子定款があります。紙の定款認証に必要な持ち物は次の通りです(電子定款は次の章で解説します)。
- 定款3通
- 発起人(出資者)全員分の印鑑証明書
- 収入印紙:40,000円分
- 公証人へ払う認証手数料:30,000〜50,000円(資本金額によって異なる)
- 定款の謄本交付手数料:1ページにつき250円(定款の枚数によるが、2,000円程度)
- 委任状(代理人が定款の認証を行う場合)
会社の設立に必要な収入印紙40,000円分は事前に収入印紙を扱う郵便局で購入しておくと安心です。収入印紙は消印をして使用するので、定款に間違いがあった場合を見越して、公証役場で定款をチェックしてもらった後に貼るのが良いでしょう。
また、公証人へ払う認証手数料と定款の謄本交付手数料(定款のページ数×250円)は現金支払いになるので、準備しておきましょう。
なお、2022年1月1日以降は定款の認証にかかる手数料が資本金額によって変動されますのでお気をつけください。
- 資本金100万円未満:30,000円
- 資本金100万円以上300万円未満:40,000円
- 資本金300万円以上:50,000円
代理人が定款の認証を行う場合は、代理人本人の印鑑証明書と実印、もしくは運転免許証やパスポートなどの身分証明書がが必要です。
電子定款
インターネットの普及により、定款の認証は紙だけでなく、オンラインでも受けられるようになりました。ただし、電子定款を勝手に作成していないか公証人が直接確認する必要があるため、公証役場に出向く必要があります。代表者が直接行けない場合は、委任状を用いることで代理人でも対応できます。
オンラインでできるなら、そのほうが便利そう。よし、電子定款で認証を受けよう。
電子定款の認証申請には、必要な備品があります。PDFを作成するためのソフトや電子証明書付きのマイナンバーカード、マイナンバーカードの読み取りに対応しているICカードリーダライタ、署名プラグインソフトです。ご自身のパソコン環境などを考えて申請しやすい方法を選んでください。
げげっ、マイナンバーカードは持っていないや……。
マイナンバーカードの作成には、最低でも1カ月はかかりますよ。また、マイナンバーカードの電子証明書には有効期限があります。注意してくださいね。
電子定款認証の主な流れは次の通りです。
1. 電子定款を作成し、公証役場にチェックを依頼
パソコンで電子定款を作成。内容に誤りがないか、管轄の公証役場に問い合わせた上で、定款案をメールやファックスなどで送付してチェックを依頼します。
2. 電子定款に電子署名を張り付けて提出
マイナンバーカードの電子署名をICカードリーダライタで読み取り、チェックが完了した電子定款のPDFファイルに電子署名を貼り付けます。
署名した電子定款は、法務省の登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと」で提出。認証申請を行ったことを公証役場に連絡します。
3. 公証役場に出向き、手数料の支払いなどを行う
事前に電話で訪問日時の予約を行った上で公証役場を訪れ、本人確認資料の提出や認証の手数料の支払いを行います。
公証役場を訪れる際、必要な持ち物は主に次の通りです。
- CD-R
- 電子定款をプリントアウトしたもの
- 発起人全員の印鑑証明書
- 電子署名をした発起人以外の委任状(発起人が複数いる場合)
- 認証手数料・その他手数料(5万3,000円ほど)
- 身分証明書
- 印鑑
認証された定款は、登記申請で必要になります。
<参考記事>
複数人で会社を設立する場合は「電子署名をした発起人以外の委任状」が必要になります。
→電子定款認証の方法!インターネットで電子定款を送信しよう
以前は住民基本台帳カードが電子証明書の申請に必要でしたが、住民基本台帳カードはマイナンバー制度の開始に伴い、新規の発行が終了しています。
→電子定款の作成や認証はどうすればよい?会社設立の基礎知識
会社設立に必要な書類
登記とは、法務局の商業登記簿に会社の情報を記載することを指します。
法務局に会社の情報を記載すると、何ができるようになるんですか?
会社の資本金や本社所在地などの基本情報を誰でも知ることができます。遠方から取り寄せることが可能で、企業が取引先となる会社について調べる際などに活用されます。
登記申請に必要な書類は次の通り。
- 登記申請書
- 登記免許税納付台紙
- 資本金の払込を証する書面
- OCR用紙(もしくはCD-R)
- 定款
- 発起人決定書
- 就任承諾書(代表取締役、取締役、監査役)
- 取締役全員の印鑑証明書
- 印鑑届出書
<参考記事>
登記申請書と収入印紙を貼ったコピー用紙は会社実印で契印をすることも忘れないようにしましょう。
→会社設立に必要な書類は11種類。作成方法から提出先まですべてお教えします
登記申請書
登記申請書の様式は法務局のホームページからダウンロードできます。申請書には次の一覧の記載が必要で、基本的には定款に記載した文書と同じような内容になります。
<具体的な記載事項>
- 商号
- 本社所在地
- 登記の事由
- 登記すべき事項
- 課税標準金額(資本金額、1000円未満は切り捨て)
- 登録免許税
- 添付書類の種類(現物出資の有無などで違う)
- 申請年月日
- 申請人
- 申請先法務局名
登記申請の方法は、次の3種類です。
法務局に直接申請
登記申請書を作成し、管轄の法務局に直接提出します。
郵送で申請
登記申請書を作成し、管轄の法務局に郵送します。
オンラインで申請
登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと」で登記手続きを完了させます。申請者の情報を登録や申請用総合ソフトのダウンロードが必要です。
<参考記事>
オンラインでの請求では交付手数料が安くなるほか、平日の21時まで申請ができるというメリットがあります。
→会社設立時に法務局でやるべき手続きについて解説
印鑑届出書
印鑑届出書とは、会社の実印を法務局に届け出る際の書類です。印鑑届出書を提出することで、銀行の法人口座開設や大切な契約を結ぶ際に必要な印鑑証明書が取得できます。
届け出する印鑑は1辺の長さ(丸い印鑑では直径)が1cm以上3cm未満。印鑑を提出するのは、株式会社の代表取締役や合同会社の代表者です。
代表が2名以上いる場合は、全員が提出しても、代表者1名が提出してもかまいません。複数の代表者が登録する場合は、それぞれが別の印鑑と印鑑届出書を準備する必要があります。会社の実印と、代表者個人の実印を混同しないように、気を付けましょう。
印鑑が必要なんですよね。とりあえず、自宅からシャチハタを持ってきました!
残念ながら、シャチハタは複製しやすいので、印鑑登録では使えません。会社の実印や銀行印、角印を作る必要があります。このほかに代表者の実印も必要なので、持っていなければ購入しましょう。
<参考記事>
会社設立の際の印鑑証明書の提出先には、公証役場と法務局があります。
→会社設立時に必要不可欠!印鑑証明書を発行してもらう方法と必要な枚数について
合同会社で代表社員が法人の場合は、書き方や押印に使用する印鑑に注意が必要です。
→会社設立に必要な印鑑届出書とはどういうもの?
登記事項証明書
登記申請が終わったのもつかの間、会社を設立した後には、次の作業が必要です。
- 金融機関の口座開設
- 税務署へ法人設立届出書、給与支払事務所等の開設届出書
- 青色申告の承認申請書、源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書など
- 都道府県税事務所、市町村役所へ法人設立届出書
- 年金事務所へ新規適用届 など
やることはまだまだありますね……。それぞれ、どんな書類が必要になりますか?
自治体への法人設立の届出など、さまざまな場面で登記事項証明書が必要になります。これは、商業登記のデジタルデータの一部を出力した証明書のことを言います。種類が大きく分けて4種類あるので、間違わないように注意してくださいね。
<登記事項証明書の種類>
・現在事項証明書
現在、効力を有する登記内容が記載されています。
・履歴事項証明書
履歴事項証明書にも記載されていない、効力を失った事項も記載されてます。
・代表者事項証明書
会社の代表者の代表権に関する事項で、現在も効力を有する事項が記載されています。
<参考記事>
登記後、税務署に届け出が必要な書類を一覧できます。
→会社設立前後で提出が必要となる書類一覧をまとめました
まとめ
会社の設立は商号や事業目的だけでなく、定款の作成・認証や資本金の払込、登記申請が必要で、決めるべき事項や準備する費用がたくさんあります。事前チェックを公証役場に依頼するなど、誤りをなるべく減らす努力が必要です。
会社の代表は、これに加えて事業目的に関わる会社のサービスも熱意を持って取り組んでいかなければなりません。「一人ではとても対応できない」「書類は苦手だ」という方には、freee会社設立がおすすめです。
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