クラウド上で会計業務から申告業務まで一気通貫 「クラウドfreee申告」が実践する新しいUXの力
freeeは日本で初めて、法人税申告・確定申告・年末調整の電子申告に対応するインストール不要のクラウドネイティブな税務ソフト「クラウドfreee申告」を提供している。
2017年のリリース以来、スモールビジネスをサポートする会計事務所のバックオフィス業務の効率化をアシストするために、たゆみないアップデートを続けてきたfreee申告。開発・運営に携わるメンバーのインタビューを通し、安心・安全・効率化を目指すクラウド型税務申告ソフトにフォーカスする。
会計・申告ソフトの一気通貫が強み
――開発リーダー、デザイナー、開発部長の3名にお集まりいただきました。freee申告のリリース、機能向上にどのように関わってきたのかをお聞かせください。
田畑克敏(以下 田畑) エンジニアマネージャーとして関わっています。開発メンバーとして強調したいのは、クラウドネイティブで会計ソフト「freee会計」との連携ですね。freee申告は、プロセスごとに分断されていた会計~申告業務をシームレスに連携。クラウド上で会計業務から申告業務まで一気通貫であることがポイントです。複数のソフトを同時に操作することも、手打ちで転記する作業も基本的には必要ありません。
泉 祐一朗(以下 泉) freee申告の開発チーム立ち上げから携わり、現在はマネージャーとしてチーム運営にシフトしています。freee申告は当初は法人税のみの対応でしたが、2018年には所得税に対応するなど、機能拡張を続けてきました。
田畑が説明したように一気通貫がポイントですが、ユーザーにやさしい設計、ユーザビリティも特徴です。私たちのチームが擁するのはUIデザイナーではなく、UXデザイナー。つまり、意識するのはユーザーインターフェースではなく、ユーザーエクスペリエンスです。見た目の整然さだけではなく、ユーザー体験を重んじてサービスを作ってきました。
春田雅貴(以下 春田) 僕はUXデザイナーとして関わっています。法人税や所得税は税制としても複雑なもので、どうしてもあれこれと複雑な機能を盛ってしまいがちです。だけど、何でもできたとしても、どう使ったらいいのか分からないようではサービスとして意味をなしません。
freee申告を使ってくださる会計事務所のお客様は税のプロフェッショナルですが、ソフトのプロフェッショナルとは限りません。「初めて使う人でも使えるように」ということを意識してデザインを進めてきましたね。
――UXの視点は、2018年度版にアップデートした「所得税」でも留意されていますね。
田畑 はい。ここでは「ステップUI」からご説明しましょう。ステップUIとは、文字通りステップに沿って進むことで確定申告書が作成できるという「freee会計」ならではのUI。申告に精通していない方でも情報の入力がスムーズにできます。
――なるほど、「どういう所得がありますか」といった質問に、はい・いいえで答えていくだけで申告書が作成できますね。これは個人事業主にはうれしいポイントになるでしょう。
田畑 しかし、freee申告を利用するのは会計事務所の皆さんです。いくら入力がしやすくても、普段作り慣れている書類として申告書を確認できないようでは意味がありません。そこで、freee申告は帳票ベースで確認できる仕様で構築しました。
freee申告は、freee会計で入力した情報を引き継ぎつつ、決算書や明細書などの帳票を作成するという形で申告書が作成できます。これにより、顧問先の方や入社したてのスタッフなど、申告に詳しくない方に入力を任せ、税理士が帳票のチェック、修正をして申告書を仕上げるというフローが可能になるのです。
会計事務所では、手作業で申告ソフトに入力しなくてもいい。顧問先が30~40件にのぼれば、作業時間の圧倒的な短縮につながります。このクラウド一気通貫サービスが好評をいただき、2018年度は300事務所・3000申告が会計・freee申告で完結しています。
UXの視点が税務ソフト「freee申告」のエッジを際立たせる
――UXの視点がfreee申告にどのように活かされているのか、さらに掘り下げてお聞かせください。
田畑 税務ソフトでは「安全・安心」がもっとも大事ですが、僕たちはプラスの要素としてUXを武器にしようと考えました。これは他にはない視点だと自負しています。若い世代の税理士が増えるにつれ、使いやすいインタフェースへの期待は高まる一方でしょう。ストレスを感じず業務に集中していただけるよう、UXをさらに向上させていきたいと考えて取り組んできました。
春田 所得税申告の帳票作成では、同じ情報を複数の書類に入力して仕上げていかなければなりません。一つの情報を入力したら、他の場所に反映される。これだけで入力作業にかかる時間は格段に短縮できるでしょう。
申告書類の作成に手慣れた税理士がイメージする書類の順にそって画面を構成することも意識しました。用語一つをとってもそうです。医療費控除は、個人事業主向けのステップUIでは「病院に行きましたか?」「薬の購入に支払った額は」といった質問で入力していく仕組みです。それは分かりやすい反面、税理士にとっては医療費控除とすぐにイメージしにくい。そこでチェック、確認がワンテンポ遅れることで、トータルでは大きなタイムロスにつながります。用字用語も、税理士が普段使っているワードに変換するよう、意識してデザインしました。
――入力や確認をするスタッフの目線に立った設計とデザイン。それこそがUXである、と。
春田 ここが分かりにくい、使いづらい......ユーザーの税理士は日頃から様々なフィードバックを送ってくれます。ただ、それだけでは声にならないユーザーの声を拾うことができません。
入力のフローで何が問題になるのか? 僕はプロダクトマネージャー、ときにはエンジニアを巻き込み、実際に会計事務所にうかがってヒアリングし、作業状況をひたすら観察させていただくということを地道に繰り返しました。ちょうど、2018年度の確定申告期の時でしたね。
申告作業のどこでつまずくのか? 申告ソフトを使っている時にはどこで迷い、どこに時間がかかってしまうのか? を静かに観察していったんです。
――申告シーズンピーク時の会計事務所でモニタリングできたというのは、開発チームとユーザーのつながりがあってこそ。では、そこで見えたものは?
春田 申告書作成は画面に集中してひたすらチェックして行っていくもの――そんな僕たちの先入観は、すぐに覆されました。パートさんの質問を受けたり、問い合わせの電話に出たりして、しょっちゅう作業は中断してしまうものなんです。
修正すべきポイントがあっても、中断するたびにゼロに戻ってまた確認のし直し......これでは全体の作業時間も縮まりません。作業が中断した局面のチェックポイントがすぐに分かること、いろんな画面を行き来しなくても要修正箇所がパッと分かることが重要なんだ、と痛感しました。デザイナーとしてフォーカスすべきポイントは、忙しい中にお邪魔させていただいたお客様の画面で見つけられたんです。
泉 修正する際は帳票上だけではなくて、最初の入力元、freee会計まで戻って修正しなければなりません。入力ソースとアウトプットの距離が遠かった。今年はその手戻りを少なくすることで、確認・修正をよりクイックにできるようにして、一つの課題解決になっていますね。
さらに、ヒアリングや訪問を重ねることで分かったこともあります。会計事務所の規模にもよりますが、申告書を作成するのがパートタイマーなどで、最終チェックをするのは税理士、というケースも多いんです。そこでは、ステップUIの入力と帳票ベースでの確認・修正というfreee申告の強みが生きてくるでしょう。複数人が分担して作業することを考慮し、ベストなインタフェースをご提供していけたらと考えています。
毎年のアップデートでユーザーテストを重ね、課題を抽出
――クラウド型のメリットを生かして毎年のようにアップデートを行っていますが、そのアップデートも常にユーザー視点から考え抜かれたもの、ということでしょうか。
春田 事前にユーザー側の課題を浮き彫りにするために重視しているのがユーザーテストです。2018年度版のアップデートは11月に行ったんですが、2019年度版は前倒しして6月に行いました。機能を作り込む前から十分にテストし、大きな課題をつぶしておこうというのが狙いでした。
泉 freeeではユーザーテストの規模感は3~4人程度が通例ですが、今回の2019年度版アップデートでは7人×2、のべ14人という規模で行いました。前述の通り、事務所の規模によって申告業務のフローも大きく変わってきます。そこで、業務フローごとの課題をきめ細かく理解する必要を感じていたんです。
田畑 さらに、ユーザーテストの前には「ユーザーストーリーマッピング」という、開発、営業、サポートといった全メンバーを集め、ユーザーの業務を理解するためのワークショップを開催しました。僕たち開発陣は税理士に何度もインタビューしてユーザー業務の把握に努めてきました。そこで浮かび上がった現場の課題をチーム全体で共有し、2019年度版に盛り込んでいくためのワークショップです。
――開発中のテスト、実証サイクルで注力したポイントを教えてください。
田畑 開発チームは、「スクラム」と呼ばれる開発手法を採用し、2週間サイクルでPDCAを回していきました。これは開発から評価、改善までの工程を短期間で高速回転させるアジャイル的な手法です。全体を設計してから機能を実装していくウォーターフォール型の開発と違い、細かな仕様変更、機能追加が随時行えるのが大きなメリットです。
ただ、新機能をたくさん開発して追加していく上では、バグが出やすくなるのがネックになります。そこで、今取り組んでいる2019年度版ではロボットによる自動テストをさらに強化。2週間サイクルで細かい修正、機能追加を入れても品質を担保できる仕組みを整えています。
泉 アジャイル開発はfreeeという会社全体で進めている取り組みです。テストの自動化に強いメンバーが加わったこともあり、QAエンジニアの陣容も充実しています。変化に強い開発を存分に進められる土壌が整いつつありますから、エンジニアには安心してどんどん機能を追加していってもらいたいですね。
春田 2週間のサイクルといえば、2018年度版の「再連携」機能追加が印象に残っていますね。あの「#freeeに願いを」から始まった......。
田畑 あ、あれは忘れられないエピソードだよね! 説明しますと、Twitter上には「#freeeに願いを」というハッシュタグのもと、多くの税理士ユーザーが改善、機能追加の要望をポストしてくれているんです。そこで、僕たちの目に留まったのが「決算書の再連携機能」だったんですよね。
泉 2018年度版の「所得税」申告では、決算書の再連携機能はいったん保留にしてリリースしたんです。ただ、「#freeeに願いを」では、再連携機能を要望する声が僕たちの予想以上に多く寄せられました。幸い、リリースから3月15日の申告締め切りまではまだ日程の余裕があります。よし、やろう! と。
田畑 各メンバーがスピーディーに取り組み、要件定義~UX~実装まで一気に突き進みました。ハッシュタグで投稿を目にしてから2週間後のリリース。僕たちは、こういうことができるようにアジャイル開発の手法を取っています。追加機能を提供後、ユーザーから「待ってました!」といった声をいただけたことは、メンバー一同にとっても大きな喜びでした。
完全電子化・自動化時代にfreeeが見る夢
――開発陣の達成感とユーザーの喜びがリンクした瞬間ですね。では最後に、来たる2019年度版のリリースに向け、今後の抱負をお聞かせください。
春田 僕は大学では会計学科で学んでいましたから、友人に会計士、税理士が多いんです。そこで見聞きするのは、申告シーズンに疲弊する彼らの姿でした。
UXデザイナーとしては、「そもそもそれって入力をする必要があるの?」というシンプルな疑問を大切にしながら、申告業務の効率化、スピード化をアシストできたらと思っています。業務時間を短縮することで、その先のお客様に対して高い価値を与える業務に集中できるようにもなるでしょう。
田畑 これまでの開発では、実務的な税務知識はプロダクトマネージャーに頼っていたところもありました。だけど、エンジニアの税務知識が増えれば増えるほど設計も豊かなものになり、いいプロダクトにつながると考えています。エンジニアも税務知識を身に着け、より良いソリューションを考えていきたいと考えています。
そして目指したいのが、freeeのファンをもっと増やすことです。たとえばAppleのように「freeeを使っているのがカッコいい!」というプロダクトを目指していきたいですね。
泉 2020年にはマイナポータルを通じた社会保険・税務手続きの電子化、ワンストップ化がスタートします。税務データがすべて電子化されていく中、会計事務所の自動化、ワンストップ化も待ったなしで進むでしょう。僕たちはその潮流をしっかりキャッチアップし、完全自動化をサポートする存在でありたいと思っています。税務ソフトベンダーとして高い技術力を突き詰めていくこと、それが当社の強みですから。
まずは、「freeeを使えば間違いないだろう」という信頼をいただくことが第一歩。品質はもちろん、UX的な使いやすさ、業務効率化の向上にチーム一丸となって注力していければと思います。
後編:現場の声を確実にスピーディーに生かす 「クラウドfreee申告」のマネジメント体制の強み
(取材・執筆:佐々木正孝 編集:阿部綾奈/ノオト)