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【次世代バックオフィス構築セミナー】API活用によって大きく変わる「次世代のバックオフィス」

リベロ・コンサルティング代表社員 武内俊介氏

近年普及が進むクラウドサービスですが、一方でクラウドサービス間の役割分担やサービス連携が上手くいかず、目に見える効果が上がっていない、という声も聞かれます。今回「次世代バックオフィス構築セミナー」と題して開催されたイベントでは、その課題に対してAPIを活用することで大きな成果を上げた各社の経理担当たちが話をしてくれました。その様子をこれから2回に分けてご報告します。

今回はその第1回として、リベロ・コンサルティング武内氏によるAPIに関する説明とその活用が生み出す可能性について講演をレポートします。

目次

APIと全体最適化

APIと全体最適化
リベロ・コンサルティング代表社員 武内俊介氏

APIの利便性

武内:みなさんこんにちは。リベロ・コンサルティングの武内俊介と申します。私の肩書は業務設計士・税理士と表すことが多いのですが、業務設計士としてのメインの仕事は顧客のシステムから業務フローを含めて全体を設計することです。 例えば、顧客のデータベースを刷新して、会計もクラウドに載せ替え、これまで非効率だった業務を一気通貫でやりたいといったご要望をいただくことが多いです。これに対して、Salesforceやkintoneを使い、顧客管理や請求・支払管理をシステム化して、freeeなどのいわゆるクラウド会計に連携できるようにするといったことをご支援しています。

さて、今日はAPIとはそもそも何なのか、なぜAPI連携は複雑な企業情報の管理を劇的に効率化することを可能にするのか、業務効率の改善に大きなインパクトを出せるのかといったことを概念的なお話を含めてしたいと思います。

そもそもAPIとは何なのでしょうか。APIは、Application Programming Interfaceの略称となのですが、ここでのアプリケーションとはソフトウェアと同義だと思ってください。APIは、ソフトウェアやコンピュータプログラムが管理するデータや機能を別のソフトウェアと繋いだり共有したりできるようにするために、アプリケーションの一部を公開することを指します。例えばFacebook認証やGoogle認証で他のサイトにアカウント登録できるのは、APIによって認証機能を共有しているからです。他にもおこづかい帳アプリで銀行のデータやクレジットカードのデータを得ることもできるのも、APIによってデータを取得しているからです。
APIの大きな特長として、システムの中に入ってデータを入手するのではなく、セキュアな状態で必要な情報だけを外から参照したり、取得したりできることが挙げられます。

もう少し細かい解説をしますと、WEB上で公開されているものは「Web API」または「パブリックAPI」と呼ばれています。SaaS系のサービスを作っている会社が自由に活用してくださいとWEB上に公開している類のものが多いですね。一般的に、「API」と呼ばれているものはほとんどがこの「Web API」のことです。
他にも重要な区分として、「参照系API」と「更新系API」があります。この両者の違いをイメージしていただくには、銀行口座のデータ連携を思い描いてもらうとわかりやすいです。参照系APIは、データ参照のみができるAPIです。つまり、銀行口座の明細を見ることはできますが、新しい取引を登録することはできません。一方更新系APIは、データを更新することが出来ます。例えば、振り込みデータの登録などをできるのが更新系APIです。
この二つは明確に分かれているので、公開されているAPIが参照系なのか更新系なのかが分かると、そのサイトからデータを取得してどういったことができるのかをイメージしやすくなります。

リベロ・コンサルティング代表社員 武内俊介氏

APIについて話すとき、「CSVダウンロードとはどう違うのですか?」と訊かれることがあります。これらは全然別物だと思ってください。、極端な例でいえばAPIとCSVダウンロードでは現代のスマホと電話交換手がいた時代の電話ぐらい違います。CSVダウンロードは毎回CSVをダウンロード・アップロードする作業を人が行います。それに対してAPIはその一連の作業を自動で行い、常に最新の情報を取得することができます。これは件数が1件2件では大きな差にならないかもしれませんが、数千数万という数を扱う場合や毎日更新が必要な場合などは、大きな差になります。また、きちんと正しいデータをダウンロード・アップロードできているかを人間がダブルチェックする必要がない点でもAPI連携の方が大きな効率化を生み出すことができます。

さて、そろそろ本題に入るべく、昨今のトレンドを今一度整理してみましょう。これまで多くの大企業で用いられてきた「ERPパッケージ」は一つのシステムで会社のあらゆるデータをオールインワンで管理するものでした。しかし、ERPは導入、運用コストが非常に嵩み、中小企業が簡単に導入できるものではありませんでした。仮に一度導入したとしても会社の成長や市場の変化、ビジネス環境の変化に柔軟性をもった対応が迅速には展開できない弱点もありました。
そこで昨今のトレンドでは、全てを一気通貫で行うERPではなく 会計なら会計、労務なら労務といった分野ごとに個別業務に最適化したクラウドサービスを複数導入することが主流となっています。しかし、部門別に個別最適化したクラウドサービスが一つの企業内に乱立してしまったことで、今度はデータが部門ごとに分断されて管理されるようになりました。結果として企業が全ての情報を網羅的に把握することが困難になるという課題が生じてしまいました。

この課題に対し、ガートナージャパン社では「ポストモダンERP」という概念を提唱しています。ここでキーになるのがAPIです。ポストモダンERPはクラウドアプリケーションを含む複数のアプリケーションを「疎結合」して繋げていくことで変化に対応していくという新しい概念です。部門ごとに個別最適化した複数のクラウドサービスをAPI連携で繋ぎ合わせるという考え方ですね。
ここでのポイントが「疎結合」という繋がり方です。従来のシステムでは何か一部を変える場合、全体への影響が避けられないシステムの組み方をしていました。「ポストモダンERP」では一つひとつのシステムの独立性を維持しながら各システムを繋げることでそれぞれの利点を活かし、それでいて一体のシステムのように情報を共有して、動かせることがポイントです。
最近のトレンドであるSaaS系のサービスの疎結合に関して、APIが果たしている役割は大きく、不可欠な存在と言えます。

API活用は今後主流になる

API連携を活用するメリットは大きく2つあります。1つは開発の効率化です。APIとして既に公開されている機能については、これまでのように高い費用を投じて1から作る必要はなく、そのAPIとして公開されている部分を活用すればよいのです。これによって、素早く正確に、開発コストを抑えてシステム開発をすることが可能となります。
もう一つのメリットは、常に新しい情報をリアルタイムに取得できることです。CSVダウンロードの場合は、人が操作しないと更新されません。API連携であればシステムが自動実行されることで、複数のシステム間でデータを同期することができます。

リベロ・コンサルティング代表社員 武内俊介氏

ここからは具体例を見ていきましょう。例えばみなさんが良く使う色んなアプリにはカレンダーやマップが入っていますよね。こういったアプリの殆どがGoogleカレンダーやGoogleマップのAPIを活用しています。ゼロからカレンダーやマップの仕組みを作るのではなく、API連携で住所情報から地図を呼び出したり、時間情報からカレンダーに登録するといった機能をアプリ内に簡単に実装できるようになっています。

更新系APIの事例でいうと、銀行の口座システムとfreeeとの連携が挙げられます。この連携には口座情報や明細を取得する参照系APIと振り込みデータを送る更新系APIがあります。これまで銀行側は更新系APIの活用に関してセキュリティ上消極的でしたが、2018年頃を境に住所変更や振込データの登録が可能な更新系APIの対応をしてくれるようになりました。
そのおかげで、会計ソフトのUI上で振り込みデータを作って登録できるようになりました。これは更新系APIを活用して銀行の中のデータを更新しにいくというAPIの活用方法となります。

クラウド会計領域で比べるAPI

さて、ここから少しクラウド会計の領域に絞った話をしたいと思います。現時点で各種クラウド会計サービスを比べると、freeeは圧倒的にAPIが充実しています。経理の現場にとって嬉しいのは、勘定科目や部門、取引先との各取引の反映がAPIで簡単に更新できること。これはありがたいですよね。それから実際の試算表を用いてスプレッドシート上で予実管理表を作ることができるなど、freeeのAPIが充実しているため、様々な活用法法が考えられます。
国内の会計ソフトを見るとPCA、勘定奉行、freeeの3つがAPIを公開していますが、PCAと勘定奉行は利用するのに面倒な申請が必要だったり、有料だったりするので現時点ではAPI活用ではfreee 1択ですね。

またfreeeはアプリストアを公開していてAPI連携するサービスを増やすことに注力しています。アプリストアから連携サービスを探していくことで、簡単・効率的に最適なバックオフィスを組み立てることができます。ここで設定をするだけでAPI連携が実現できるわけです。コマンドやプログラミングのリテラシーがなくても、アプリストア上の外部サービスはfreeeと繋げることができるようになっています。
私の知り合いの税理士は顧問先からECの管理がしたいという要望があったときには、freeeのアプリストアから最適なサービスを探しているそうです。freeeを活用する環境であればアプリストア上のもので組み立ててしまい、効率的に顧客の要望を適えることができるようになったとのことです。

ちなみに、Salesforceとfreeeの相性も非常にいいです。SalesforceはあくまでもSFA(営業支援)のソフトウェアなので、これまでは請求管理などの面は弱かったのですが、freeeと連携することで、シームレスにリード・商談の受注管理から請求・見積もりの管理、入金管理、債権管理などを一気通貫に行うことができるようになりました。これはインパクトの大きな話だと思います。API連携のおかげで、SFAのデータを会計ソフトに打ち直す必要はありませんし、SFAから自動で連携されるので登録漏れもおきません。

まとめ

これまでは、経営管理、従業員管理、取引先管理、会計管理といった部門ごとの情報をERPなどの一つのシステム上で管理することは中小企業にとって難しく、部門ごとに個別最適化したクラウドサービスの活用となっていました。しかし、各部門でデータを点在させながら管理することになり、企業側の全体把握に大きな課題感がありました。この課題がここ2,3年APIの活用があたりまえの時流になったことで、簡単に解消できるようになったのです。もはや各領域でデータは点在させながら管理していた時代は終わりました。企業の各部門のシステムがAPIを介して繋がることで、複雑な企業情報の管理を一気に効率化できるようになりました。オールインワンで管理ができるようになったわけですから、次世代のバックオフィスの在り方はこの全体の最適化を意識できるか否かが肝心なのだと思います。
幸いなことに各方面でそれぞれ専門性の高いサービスが色々とでてきています。それらを組み合わせてどう最適化させていくかを考えることができること、APIの本当の価値とはそういうところにあると考えています。

リベロ・コンサルティング代表社員 武内俊介氏

リベロコンサルティング合同会社 代表社員 税理士・業務設計士 武内俊介氏
システム企画部門、会計事務所、ベンチャーのバックオフィスを渡り歩き、独立。現在の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構築を設計し、業務からシステムまでの再構築を一気通貫して提供している。得意領域は顧客管理DBの構築と会計システムへの連携。

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第2回:各社の経理担当たちによるトークセッション